小倉はいわば将棋界の長い長い歴史と戦っている。「通りで強いわけだ」と心の中で苦笑いを浮かべてみる。
「小倉先生、残り1時間です」
記録係の戸前三段の声が小倉の耳に届き、視線を声の主に向ける。若者は気押されたように俯いた。
あと1時間。小倉の形勢判断では少し苦しいが、まだはっきり悪い訳ではなかった。しかし、このままの状態で時間を使いきり、秒読みにでもなれば、勝ち目のない事は分かりきっていた。残り時間のあるうちに、勝負を決したい。小倉は直感を頼らざるを得ないと覚悟した。
「小倉先生、残り1時間です」
記録係の戸前三段の声が小倉の耳に届き、視線を声の主に向ける。若者は気押されたように俯いた。
あと1時間。小倉の形勢判断では少し苦しいが、まだはっきり悪い訳ではなかった。しかし、このままの状態で時間を使いきり、秒読みにでもなれば、勝ち目のない事は分かりきっていた。残り時間のあるうちに、勝負を決したい。小倉は直感を頼らざるを得ないと覚悟した。