ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

将王 10手目「謎」

2016-01-01 16:37:28 | 小説
ベテラン棋士の古典的な思考を変える為には、さしたる趣味も遊びもしない自分が、勝ち続けることしかないと小倉は思った。

決意通りに小倉は勝ち続けた。20代で将王7期という揺るがぬ実績を作り上げ、「将棋といえば小倉」とさして将棋に詳しくない人々にまで漠然と知られるまでに至った。

その間に小倉は何度か女性と恋愛関係も築いた。中でも20代の終わりから30歳をまたいだ3年ほど続いた、女流棋士の高林梨奈との交際では結婚も真剣に考えた。しかし、その直前、彼女は消えた。

よりによって同業者である棋士の元へ走ったのだ。名は岸谷というその男が、自分より魅力的ならば、まだ分からないでもない。しかし、年齢的には小倉と同世代ながら、まだ五段で、勝ったり負けたりの平凡な戦績。人気がある訳でも個性が強い訳でもない。副業に精を出すタイプでもなく、年収は小倉の十分の一にも満たないだろう。外見も凡庸な岸谷のどこに自分との交際を破壊するような魅力があったのか、小倉は梨奈に聞いてみたくもあり、またその答えを恐れてもいた。
コメント
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