小倉は会長室のドアをノックした。
「どうぞ」
聞き覚えのある声がした。川野は45歳の若さで将棋連盟の会長という重責を担っていた。棋士としてもトップクラスの力を維持し、現役バリバリなのだが、人格者として名高い川野に白羽の矢が立った。棋士を含めた周囲の「川野さんしかいない」という声に抗しきれなかったのだ。
「お話とは何でしょうか?」小倉が黒皮のソファに腰を落とした。テーブルを挟んで、対局するような目で川野の端正な顔を見た。
「小倉さんには申し訳ないが、ヘボンとの対局を引き受けて欲しい。勿論、無理にとは言いません」。いつもと変わらず、川野は穏やかな口調だ。
「嫌です。受け入れられません」。小倉の言葉からは強い意志が滲んでいた。
「実は開発サイドから、ぜひとも小倉さんと対戦したいと持ちかけられているんです」
「そうですか。うん、そうですね。どうしてもと言うなら、引き受けてもいいですよ」
「本当ですか?」。川野の声が少しだけ弾んだ。
「しかし、条件があります。今後1年の対局を休ませてください」。小倉は静かな口調で言った。
「それはできません。小倉さんは将棋界の顔です」
「ならば、やはり受けられません」
「分かりました。開発側には私から伝えておきます」。川野の口調には、冷静ながらも決意を固めたような芯の強さがあった。
「どうぞ」
聞き覚えのある声がした。川野は45歳の若さで将棋連盟の会長という重責を担っていた。棋士としてもトップクラスの力を維持し、現役バリバリなのだが、人格者として名高い川野に白羽の矢が立った。棋士を含めた周囲の「川野さんしかいない」という声に抗しきれなかったのだ。
「お話とは何でしょうか?」小倉が黒皮のソファに腰を落とした。テーブルを挟んで、対局するような目で川野の端正な顔を見た。
「小倉さんには申し訳ないが、ヘボンとの対局を引き受けて欲しい。勿論、無理にとは言いません」。いつもと変わらず、川野は穏やかな口調だ。
「嫌です。受け入れられません」。小倉の言葉からは強い意志が滲んでいた。
「実は開発サイドから、ぜひとも小倉さんと対戦したいと持ちかけられているんです」
「そうですか。うん、そうですね。どうしてもと言うなら、引き受けてもいいですよ」
「本当ですか?」。川野の声が少しだけ弾んだ。
「しかし、条件があります。今後1年の対局を休ませてください」。小倉は静かな口調で言った。
「それはできません。小倉さんは将棋界の顔です」
「ならば、やはり受けられません」
「分かりました。開発側には私から伝えておきます」。川野の口調には、冷静ながらも決意を固めたような芯の強さがあった。