スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

書簡四十一&数と内在

2025-01-28 10:14:31 | 哲学
 スピノザがフォールブルフVoorburgから出した最後の書簡として『スピノザ往復書簡集Epistolae』に収録されているのが書簡四十一で,1669年9月5日付でイエレスJarig Jellesに宛てて出されています。遺稿集Opera Posthumaにも掲載されました。原書簡は発見されていないのですが,スピノザとイエレスとの間の書簡は,宛先がはっきりしていないけれどもイエレス宛であろうと推測されている書簡八十四を除くと,オランダ語でやり取りされていたので,この書簡も原書簡はオランダ語であったと推定されます。他面からいうと,書簡八十四の原書簡がラテン語であったということは,もしかしたらこの書簡はイエレス宛ではなかった可能性もあると想定しておく必要があるでしょう。
                             
 この書簡はイエレスが最初は口頭で,後に書簡によって質問した事柄の解答になっています。ただしその書簡は遺稿集に掲載されていないので,具体的にどのようなものであったのかは不明です。もっともスピノザの解答から,水圧に関連するものであったのは間違いありません。この書簡に限らず,イエレスとスピノザの間の書簡は,スピノザからイエレスに宛てたものだけが遺稿集に掲載されていて,イエレスからの書簡は何も掲載されていません。そして後にイエレスからの書簡が発見されるということもなかったので,現行の『スピノザ往復書簡集』にもイエレスからスピノザへの書簡は掲載されていません。一般的にいってスピノザからの返信を遺稿集に掲載するのであれば,その返信の元になった書簡も掲載する方が分かりやすいでしょうから,こうした事情になったのは,編集者のひとりであったイエレス自身の意向が働いたからであったと思われます。
 内容は自然科学に関するもので,スピノザの思想とは一切の関連をもちませんからここでは詳細は省略します。ただスピノザ自身が科学実験を行っていたということは,この書簡から確定することができます。これはこれで意味あることでしょう。
 スピノザはこの後でハーグDen Haagに居を移します。書簡から確定できるのは,1669年9月にはスピノザはまだフォールブルフのダニエル・ティードマンの家に寄宿していたということだけです。

 このように考察すれば,このこともまた内在の哲学と深い関係を有していることが理解できると思います。もしある属性attributumとそれとは別の属性が,数によって区別することができるとすれば,ある属性の世界と別の属性の世界も数によって区別することができることになります。したがってある属性からは別の属性の世界が外部の世界であることになりますし,別の属性の方からある属性の世界は別の世界であることになります。つまりそれぞれの世界の外部に別の世界があるということになるでしょう。つまり自身の世界には外部があるということになるでしょう。しかし実際にはある属性と別の属性は数によって区別することができるわけではなく,各々が唯一の属性ですから,各々の属性の世界もまた唯一の世界ということになるでしょう。したがって唯一の世界の外部に別の世界があるということは不条理です。あるいは同じことですが,唯一の世界に外部があるということは不条理です。つまり数の区別distinguereがいかなる区別であるということと,外部があるかないかということは大いに関連しているのです。つまり数という概念notioと内在という概念の間には,一定の関連があるのです。そして僕たちはこうした論理構成の下に,僕たちの世界,いい換えれば物体的世界の外部に別の世界があるということを否定するnegareようになるのですし,同じことですがこの物体的世界の総体としての全宇宙の姿facies totius Universiには外部はないと確知するcerto scimusことができるようになるのです。
 僕が吉田のこの部分の考察からいっておきたかったのはこのことだったのですが,吉田の考察そのものはここで終わっているわけではありませんし,このままでは中途半端ですから,そちらを先に進めていきます。
 世界の外部がないとしても,世界の原因causa自体は求められなければなりません。これは第一部公理三から明白です。外部がない以上はその原因を外部に求めることはできないのですから,当然ながらそれは内部に求められることになります。世界は自己原因causa suiではありませんが,それが現に存在しているということ自体はだれにも否定することができません。これを両立させるスピノザの理論を,吉田は説明していきます。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ALSOK杯王将戦&唯一と数 | トップ | 東京中日スポーツ賞金盃&第... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

哲学」カテゴリの最新記事