岡田美術館杯女流名人戦＆条件

　8日に指された第51期女流名人戦五番勝負第一局。対戦成績は福間香奈女流名人が46勝,西山朋佳女流三冠が39勝。これはNHK杯の予選を含んでいます。
　スポーツ報知の社長による振駒で西山女流三冠の先手となり三間飛車。後手の福間女流名人から角を交換したことにより向飛車になり,後手も向飛車に振っての相振飛車。急戦調の将棋になりました。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　先手はここで☗２五歩と打っていきましたが,これは危険だったかもしれません。☗９三香成☖同香と駒得しておいて☗２七歩と受けておくのが穏当でした。
　歩を打った狙いは☖同飛なら☗８五飛が厳しくなり☖同桂なら2筋が緩和できる点。後手は☖同桂の方を選択しました。先手はそれでも☗８五飛。
　後手は桂馬を跳ねたことを生かして反撃。☖３六歩と打ちました。
　ここで☗４五角と攻め合いを目指しましたがこれは失着であったよう。☖２七歩☗同銀☖３七歩成☗同桂☖同桂成☗同玉で先手玉が危険になりました。ここは☗同歩しかなかったようです。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　攻め合って勝てればいいのですがここで☖８二歩と受けておくのが手堅い手。これで先手の攻めが難しくなり後手が優位に立ちました。
　福間女流名人が先勝。第二局は16日に指される予定です。

　これについてはいくつかの実例を出してみます。
　宇宙空間から何らかの生命体が地球を攻撃し,ある人間が殺害されるということがあったとします。この場合はこの事実を知った人間は,殺害された人物やその親しい人の悲しみtristitiaを模倣し,その人を殺害した生命体を憎むようになるでしょう。このような感情の模倣affectum imitatioは確かに共同社会状態status civilisにおける人びとの,というかこの場合は地球に住む人類のといった方が正確ですが,その紐帯を強めることに有効でしょう。そしてこのような憎しみodiumはスピノザの哲学でも否定されません。というのは第四部定理四五でいわれている憎しみは,人間の人間に対する憎しみに限定されているからです。このことは第四部定理四五備考で示されています。
　なのでこのような感情の模倣は,いくら憎しみを産出するからといって悪malumとはいわれないのであり,吉田がいっているような,条件が揃った感情の模倣といっていいでしょう。ただこの例は荒唐無稽な絵空事でしょうから,条件が揃っているというのが具体的にどのような意味を有しているのかということを示す以上の意味はもっていません。しかし次のような例は実際にあるでしょう。
　大地震で被災してしまい悲しみに暮れている人の話を聞けば,やはり人は多かれ少なかれその人の悲しみを模倣することになります。そしてこの悲しみの原因causaは地震にほかなりませんから,その人は地震を憎むことになるでしょう。このような憎しみは上述のことから悪とはいわれません。いい換えれば憎しみを産出するとしても,それが悪といわれないような憎しみを産出するのですから,この感情の模倣も悪といわれません。むしろ被災者に対する支援を誘発するような感情の模倣といえるでしょうから,その限りでは善bonumといってもいいくらいです。実際には第四部定理八にあるように,たとえ感情の模倣によって刺激されるafficiとしても悲しみの認識cognitioは悪なので,本来的な意味では悪といわれなければならないのですが,少なくとも害悪よりは利益utilitasを齎すような感情の模倣だということは間違いないでしょう。ですから共同社会状態において有用といえるような悲しみの模倣があるということは僕は肯定します。