テントに戻り朝食後撤収の準備中に、Oさんから「先に下りる。また来年!」と声がかかる。
これが逆なら追いつかれる可能性もあるが、Oさんに先行されるとまず追いつけまい。
それなりに慌てて用意したつもりであったが、Oさんに遅れること約1時間、8:45下山開始。
下山後大雪高原山荘で日帰り入浴したかったのが急ぎ下りたかった理由であり、ここは泉質はいいが
けっして湯船など広いわけでないので、タイミングによっては「芋の子を洗う」状態になってしまい、
これはできるだけ避けたい事態で、ぜひ空いている時間帯に入りたかったのだ。
小屋の管理人Kちゃんにあいさつ、「お互い無事で、また来年ここで会えたらいいね」、これが
ここ何年か交わす恒例の別れ際の言葉だ。丸一年経って、何事もなかったかのようにまた顔を合わせ、
言葉を交わしてはいるが、これは考えたらけっこうすごいことだ。それまでの一年間、それぞれ
事情を抱えながら生活を営み、様々なハードルを乗り越えながら、また同じ場所に戻ってくる。
これは下界の層雲峡ユースで再会する仲間たちとの交流も似たようなものだった。毎年毎年
同じような顔ぶれと再会し、つかの間の交流を楽しんだ後、またそれぞれの生活に戻っていく。
皆抱えている問題はあるのだろうに、それをやりくりしながら、あえてここではその苦労をあまり表には出さず、
気がつくとまた同じ場所に舞い戻ってきて、お互いの無事を確認し、思い出話に花を咲かせたりする。
ユースでのその年中行事は、残念ながら今年は途絶えてしまったのだが。
RさんとWさんはもうしばらく小屋に滞在するそうだ。おふたりはどうやら「雪待ち」しているみたいだ。
歩き始めたらすぐに雲が多くなり始めて、早朝くっきり見えていたトムラウシ~東大雪は見えなくなってしまった。
緑岳からの下山途中のガレ場から。すでに晩秋を感じさせるような風景ではあるがやはり雄大で、
この景観に溶け込んでいくような感覚で下り降りていく。
エイコの沢の紅葉が美しいので驚いた。紅葉の最前線はすでに山麓まで下っていて、しかも
とても状態がいい。ちょうど雲間から強い光も差していて、日帰り装備なら間違いなく写真を撮っただろうが、
泊まり装備からではセッティングにまで時間がかかってしまう。迷った末、あきらめ、先を急いだ。
するとここから天候急変、弱い雨粒を察知して慌てた。予報では晴れのち曇りだったので、まず下山まで
大丈夫だろうと高をくくり、雨への心構えはほとんどできていなかった。遠望する忠別岳あたりは掻き曇り、
雨が降っているのがわかる。
第二花畑あたりでゆっくり休憩する予定が、その余裕はないようだ。いつ降ってきてもいいように
ザックカバーだけ被せ、休まず歩き続けた。第一花畑にかけてはチングルマの紅葉がまだ赤く、
ナナカマドもそれなりに葉を残し、おそらく初めてこの風景をご覧になる方々には、それなりの
評価を得られるような状態ではあった。
見晴台から高原温泉沼方面。このあたりの紅葉が見頃で、ナナカマドの赤色などとても見事だ。
この写真は曇り込んでいるし、まったく良さが伝わらないのが少々残念。
11:22 高原温泉駐車場到着。12:00近くにはなるだろうと覚悟していただけに、かなり上回るタイムで
到着した。最後休憩せず、足を速めたのが要因だろう。滞在中ずっと足の具合が思わしくなく、
全般体調もパッとしなかったが、火事場の馬鹿力か? 最後にして一番いい歩きができたかもしれない。
その恩恵もあり、大雪高原山荘のお風呂も空いていて、のんびり山の疲れを落とすことができた。
駐車場周辺も、日が差したり、弱い雨がパラついたりと天候は不安定であったが、最後まで濡れることもなく、
無事に山旅を終えられてホッとした。
写真にはないがこの周辺の紅葉もとても美しく、ここでこのような見事な錦秋を楽しむことができたのは、
私自身は久しぶりなような気がした。
9月23日(土) 晴れのち曇りのち雨
最終日の早朝は緑岳に向かった。紅葉的な写真ならまだ高根ガ原のほうが可能性があったのだが、
ここを往復してからの下山では体力的にもきつく、時間がかかりすぎるとの判断であった。
紅葉はほぼあきらめていた私はOさんに、「条件がよければ早めに出発して星の写真でも写してみます」と
前日知らせていたが、2時頃目が覚めたときにはガスが周囲を覆っていて中止、寝袋に潜り込んでしまった。
しかし(そうなることはなんとなく予期はしていたが)そのガスはすぐに晴れたようで、次に行動を開始
した際にはすっかり晴れ渡っていた。
雲海は少なめ、朝日も平凡。山岳写真的な風景を求めるには、穏やか過ぎる夜明けであった。
緑岳から見下ろす紅葉は、ほぼ赤がなくなってしまっていて、撮影意欲をそそられるものではなかった。
再来年は君の年なんだな、緑岳よ。全国的には無名であっても、大雪山好きにとっては、君がすごい山
だということは言わずともわかりきっているさ。
テントに戻らず、そのまま高根ガ原に向かい、チングルマの紅葉とトムラウシを撮影する。
暴風に吹かれた割にはチングルマの穂はよく残っていた。決してベストな状態ではなかったが、
この時点で稜線上で数少ない紅葉的な風景を楽しめる場所であった。