旅にしあれば

人生の長い旅、お気に入りの歌でも口ずさみながら、
気ままに歩くとしましょうか…

火蛾

2023-08-17 18:17:00 | 図書館はどこですか



続けて図書館でお借りしたのが、「火蛾(ひが)/小泉迦十(こいずみ かじゅう)
著」です。たしか、北海道滞在中に掲載された朝日新聞記事を目にしたのが、読もうと
思ったきっかけです。

その記事では、この本が今度新装・文庫版で再発売されることと、このデビュー作
以来筆を折るような形で沈黙を守っていた著者が、ついに次作を発表すること
などが紹介されていたと記憶します。地元の図書館にはその新装版は蔵書がなく、
2000年に発売された講談社ノベルス版で読むことにしました。


直近に読んだ「不実在探偵の推理」と比べると、正反対な、恐ろしくとっつきにくい
作品でした。帯にある内容紹介を記してあらすじを紹介しておくと、「十二世紀の
中東。聖者たちの伝記編纂を志す作家・ファリードは、取材のため、アリーと名乗る
男を訪ねる。男が語ったのは、姿を顕わさぬ導師と四人の修行者たちだけが住まう山の、
閉ざされた穹蘆(きゅうろ)の中で起きた殺人だった…」。穹蘆とは、修行者たちが
用いる、テントのような簡易宿泊施設のことです。

たしか新聞紙上でも、上記のようなあらすじが紹介されていて、神秘的な内容に
惹かれ読んでみたいと思ったのはいいのですが、こちらの想像をはるかに超えた
難解な内容、展開に、最後まで馴染むことができませんでした。そもそも、
イスラム世界、イスラム教のことをまったく理解できていない、知識が皆無な私には、
初っ端でつまづいたまま、立ち直ることができなかったのです。

しかし一方では、いざ読み終えると、途中感じていた拒絶意識は、私の過剰反応で、
宗教的意味合いを正確に把握できないのは致し方ないとすると、物語そのものは、
そこまで不可解で複雑なものでもなかった気がします。もしかしたら、表現が
やや回りくどいだけで、もう一度読み直してみると、意外にすんなり内容が
腑に落ちるようにも思えるのです。筋書きの独特さに反して、推理はいたって
論理的、理路整然と謎は解き明かされます。しかしそれだけにとどまらないのが
この小説の特徴で、別に宗教的な解釈も用意され、答えは複数、真理は読み手に
委ねられます。このあたり、以前読んだ「弔い月の下にて」と相通ずるものがあり、
弔い~の作者は、この火蛾から影響を受けた可能性がありますかね。


単にサスペンスとか推理小説というジャンルにとどまらない、これだけ独特かつ
手の込んだ世界観を描ききるには、相当の熱量、時間が必要で、真の理由はともかく、
次作がなかなか書けなかったのも納得できるというものです。どういう内容で
新作が発表されるのか、マニアックなものを所望する方々にとっては、期待して
いいと思います。

コメント
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