北海道東川町の図書館で「このミステリーがすごい!」企画を組んでいて、一冊読み
終えたあと、勢いに乗ってさらにもう一冊と読み始めたのが、この「生存者ゼロ/安生正
(あんじょう ただし)著」でした。現地では、出だし、第1章の途中くらいまでしか
読めなかったので、続きを地元図書館でお借りした本で、リレーして読み終えました。
いわゆるパニック・サスペンスもの、舞台は北海道、根室沖の石油採掘施設で発生し、
経路不明なまま中標津に上陸した「何者」かが猛威を振るい、北海道の東部半分は壊滅状態、
最初何かしらの「細菌」によるパンデミックかと思われていたものの真の正体を突き止め、
札幌など西部都市への襲来を食い止めるべく、ギリギリの状態で手に汗握る駆け引き、
決戦が繰り広げられます。
結果的にはパンデミックとはやや異なるものの、それに類するような、あるいはそれ以上
の危機的な状況を書き上げたこの小説は、新型ウィルスによるコロナ禍パニックが起こる
前に発表されていたことが、まず括目されるべき点でしょう。このような非常事態が、
物語の中だけの絵空事でないことは、つい最近、全世界的に経験したことです。コロナは
変異し、感染力は高まったものの、幸いにも逆に毒性は弱まったことで、徐々に脅威が
薄れていきました。あれでもし毒性もさらに強まっていたとしたら、今頃まだ猛威を
振るい、世界中を震撼させていたかもしれません。
小説ではタイトル通り、これに襲われると「生存者ゼロ」のすさまじさで町がのみ込まれ、
北海道の半分がほぼ絶滅します。中盤までは原因、正体を突き止めるためのせめぎ合いが
続き、終盤はそれとの激しい戦闘が迫力ある描写で描かれます。正義感の強い自衛隊員、
最初は反発しながらやがて心を開いていく美人生物学者、マッドサイエンティストと彼に
敵対する出世欲は強いが無能な科学者、空回りするばかりの役に立たない政府首脳陣など、
この手の分野ではよくお目に掛る登場人物には事欠かないし、ストーリー展開もこちらの
期待、希望に限りなく近いように進んでくれるのでのめり込んで読んでしまう一方、読者の
想像を超えていないと言えばそう映ってしまいそうで、その点、やや物足りなさを感じる
のかも。ただしこの感想は、すべて読み終えての後出しじゃんけんで、先が気になる展開に
ページをめくる手はとにかく早まるばかり、私などは主人公サイドに肩入れしながら読み
進めることが多いので、「正義が勝つ」結末に異論を唱えているわけでなく、むしろ歓迎
しなければならないはず。これが、小松左京さんの「日本沈没」や「復活の日」みたいな、
主人公にとって辛辣で悲劇性の強いラストを迎えていたら、物語の深みはより増すであろう
反面、あとあとまで引きずること間違いありませんから。
主だった舞台がほとんど北海道ということもありますし、北海道旅行が好きな方々は、
そのあたりの興味から手に取ってみても面白い作品だと思いますよ。ただし、道東好きの
方には今度の旅の行先を変更していただかなければなりません、あなたがお気に入りの街や
観光地はすべて廃墟と化していますので。
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