夏の北への旅でお供した本は、「悪魔の百唇譜(ひゃくしんふ)/横溝正史著」
でした。表題作一編のみ収録の中長編です。元々あった「百唇譜」という短編を
改題、長編化し刊行されたもので、こうした例は横溝作品にはいくつかあります。
関係のあった女性たちの性癖を克明に記録した『百唇譜』をもとにゆすりを
働いていた元俳優が殺害された事件は迷宮入りしていたが、新たにトランク詰め
殺人事件が起こり、過去の事件で隠されていた真相まで明るみになるストーリー。
車を利用したトリックが用意されているなど、本格推理のテイストは感じさせ
つつも、実質的には大衆向き娯楽小説色が強い作品でした。金田一耕助は早い
段階から登場、ほぼ出ずっぱりの割には印象が薄く、最後は事件解決を待たず、
おおよその見当がついた時点で放浪の旅に出てしまいます。忌まわしい事件に
相対したあと、いつも金田一はナーバスになってしまうのです。
一方で、東京での彼の暮らしぶりの一端が紹介され、朝から「アスパラガスの
缶詰」なんて洒落たものを食べていることが判明。アスパラガスの缶詰って、
おそらく私は食べたことなくて、たぶん、ホワイトアスパラガスが詰められた
やつだよねえ? 昭和三十年代当時は、食品の流通もまだまだ発達しておらず、
アスパラなども、新鮮な状態(生野菜)で店頭に並ぶことってまずなかった
のだと思われます。一般人は、アスパラを実際見たこともなかったでしょう。
金田一はアメリカで生活したこともあるので、早くからアスパラに馴染んで
いた可能性があります。それにしても粋だよねえ。
とはいえ、アディショナルな場面はともかく、金田一ものではあまり出来が
いいとは言えない本作は、横溝さんの筆力をもってどうにか体裁を保っては
いるものの、金田一初心者は、早い段階で手を出さないほうがいいでしょう。
他作品を読んだあと、「こういうのもありなのか」と、冷静に受け流すくらい
がちょうどいいのではないでしょうかね。
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