★東京有楽町の帝国ホテルの一室。
「わざわざ、神戸からおいで頂いて」と鷹揚に礼を述べた。
「いやあ、新幹線は好きな推理小説が読めるし、やっぱり花の東京はいいですな」
「さて、例のSMAPセルのことだが、準備は整っているかね」
「はい。ネイチャーへの論文掲載交渉は順調です。iPSに取って代わる画期的な万能細胞技術というのは、世界が仰天しますな」
「うむ、ノーベル賞ものだな」
「そう、超ド級のノーベル賞」
「ネイチャーに掲載するのは、1月30日付け、すかさず大々的にメデイア・リリースする手はずになっています。新聞、週刊誌、雑誌、そして忘れてならないのはテレビ・キー局すべてに、電同を通じで内々に声をかけていますから、その辺は抜かりなく」
「やはりテレビの影響は大きい、1%の視聴率で100万人が観ている。まあメデイア対策は最大手の電同に任せておけばいい」(笑)
「そして文部科学省も厚労省も」
「それを言うなら、自民党の先生たちも。商売のタネには目ざとい人達ですからな」(笑)
「お姫様の大久保晴美は、どうかね、我々の期待に見事応えてくれるかな」
「そこがポイントですな。ハーバード帰り、割烹着とスッポンで頑張る美人リケ女で売り出しましょう。それと女子力ファッションで」
「振り付けはうまく行っても、役者がヘタではどうにもなりませんからな」
「英語論文は山川と私・笹川が作り、データアップは若井ということで」
「あの姫は、元々、ケミカルが専門で、バイオ系は素人ですからね。逆にバカチーニはそれが良いということで、野心とロイヤリティがあれば、何とでも使えると」(笑)
「ネイチャーの論文ジャッジをしているのは、私が懇意にしているケンブリッジのジョーンズ教授だから、内々に話はつけてある。相応の研究賛助費も振り込んだ」
「ただ問題があって、実験に使った遺伝子情報を公開データベースに登録するという規定がありますなネイチャーには。そこは目をつぶってもらわないと」
「そして利益相関関係のデクレアも必要になる」
「だから、広告費や賛助費もバカにはならんのだ」
「まあ、再現試験には1年はかかるから、それまで時間稼ぎだ」
「しかし、その後は」
「おいおい、科学は新幹線の時刻表通りには行かんぞ」
「再現技術はノウハウがあるもの。できなくても不思議ではないでしょう。確かに最低でも1年は耐えられる」
「そして、その頃には熱は冷めている」(笑)
「そうでんな」
「肝心なことは、iPSがやったように、国から莫大な研究費を獲得するということだ。日本の科学はどうなる。これも日本の為だ。そうは思わんか」
「それから、メディアにフィーチャーする時には、iPSのガンリスク、安全性の問題、効率性の悪さをインプットしなければならんな。SMAPセルの優位性を謳いあげねば。どうせ無学の徒らには分かるまいて」
「では、神戸研と帝都女子医大の総力をかけて、日本の科学の為に、乾杯と行きましょうか」
「下に、うまい鮨屋がある、さあ」
「それから、銀座8丁目のKにも顔を出さんと、ママに叱られるぞ」(笑)
帝都女子医大の岡本教授は、大久保晴美の高田馬場時代の指導教授、そして再生医療学会のボスでもあり、その世界では権威。また自身が社外取締役になっているバイオベンチャー企業Cシードの大株主でもある。ジャスダックに上場しているこのバイオベンチャーは帝都女子医大の岡本教授らが開発している再生細胞シートを事業の柱にしている。
(じゅうめい、鋭く斬る)