光山鉄道管理局・アーカイブス

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鉄道ミステリとNゲージを語る12「特急夕月」と583系

2016-08-15 05:50:14 | 小説
 鉄道ミステリをNゲージモデルと絡めて語るシリーズ。

 今回は「急行出雲」所収の夏木静子作「特急夕月」から

 私自身本作を読むまで「夕月」と言う特急が存在する事を知りませんでしたが、実車は昭和43年から48年頃にかけて新大阪と大分を結ぶ夜光特急として活躍していたとの事です。
 本作はその夕月の車中を舞台にした一幕物で、一人旅で延岡に向かう化学会社の二代目社長とあるたくらみを胸に秘めて途中乗車して来る彼の部下の秘書課長のやり取りを中心にどきりとするラストまで一気に引っ張ります。
 夏樹氏は女流推理作家の草分け的存在でありながらも鉄道ものの短編も結構多いらしく鮎川哲也編集のアンソロジーでも3作が取り上げられているほどで、本作はその中でも最初のものです。

 さて、その夕月の運用に供されたのは主にボンネット時代の485系や489系だったらしいですが宮崎まで走る臨時列車には583系が充てられていた時期もあった様です。

 そして本作の舞台となる夕月はまさにその臨時の583系の方が登場します。
 583系は夜光では寝台にもなる車両ですが本作では座席寝台に設定されています。
 尤も、舞台となるのはグリーン車のサロ581なので最初から寝台はないですが。

「もう一つ大きな気懸かりだったのは、この列車の込み具合である。「夕月」は夏期と年末だけ運行するいわゆる帰省列車の性格を持ち、ローカル線の夜行特急と言うイメージよりも利用率が高いと聞いていた。583系明星型電車の12両編成で、本来二等車は全部寝台車なのだが、人手をはぶくために、すべて座席にして乗客をつめこんでいる」
 (光文社文庫版「急行出雲」所収「特急夕月」439Pより引用)

 作中でも夜行の座席車を伺わせる描写が多く、車内の独特の息苦しさが伝わって来るようです。


 私自身は座席寝台を使った経験がないのですが小学生の時、東京からの帰途で乗った特急がダイヤの乱れで深夜の到着となった事があるのでこうした雰囲気は何となくわかる気がします。
 (尤も座席寝台で「乗客が殺気立っている」なんて事はないでしょうが)

 ネタバレを避けつつか書かせて頂くならラストのひっくり返しは特急車両の特徴が当時としては上手く盛り込まれ(逆に言うならそれらの特徴を知らない読者がまだ当時は多かったのではないかとも思えますが)ユーモラスな幕切れに一役買っています。

 さてその583系はNゲージでは1976年暮れに学研がモデル化してから現在までの間にTOMIX、KATOから製品化され、後二社では現在までにモデルそのものがモデルチェンジでハイグレード化されるほどの人気モデルです。
 書き忘れましたが、学研からのリリースはKATOの181系よりも半年以上早く、日本初の特急型電車のNゲージ化でありました。

 それだけに年代ごとの造形の変遷も激しく、初期のモデルと現行のモデルを並べると今のコレクターなんぞはその落差に唖然とすること請け合いでしょう。
 尤も、旧モデルでも造形の味は十分に感じられるので単純に優劣は判断できませんが。

 実車で私が縁があったのは専ら東北本線の「はつかり」辺りですが昼間利用が多かったので夜行の雰囲気は今ひとつ感じませんでした。とはいえ二重窓の間を上下するブラインドとか無闇に高い背もたれとかに独特のスペシャリティ感を感じたのは確かです。尤も普通車を選ぶと背もたれはまず倒れませんでしたが当時は子供だったのであまり気にしなかったと思います。

 この前後の時期に東北本線を走る583系の座席寝台電車と言うとかつての「ゆうづる」にもそういうのがありました。
 運行時間帯の関係で食堂車はあっても営業せず、車内販売もないという代物でしたが。