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夜景を語る上で私がかねて着目しているのは昭和30年代~50年代にかけての特撮映画のミニチュアセットの夜景です。
「ゴジラ」「モスラ」等を始めとして円谷英二が特撮を担当した怪獣・SF映画には夜間の都市破壊のシーンが多いのですがそれらを通して見ている内にある事に気付きました。
それらの作品の大半が「建物の室内の灯りのないシチュエーション」を選んでいる事です。例えば「ゴジラ」や「妖星ゴラス」の東京水没シーン、「海底軍艦」の丸の内壊滅シーンなどは市民の退避した後の街灯以外の灯りのない設定ですし「モスラ」の渋谷駅周辺は直前にモスラが送電線を切断して停電した状況、「サンダ対ガイラ」に至っては灯りのある所を襲う怪獣の習性に従って灯火管制を敷いていると、「作り手が意識して灯りのあるシチュエーションを避けている」節があります。
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最初は電飾の手間を惜しんでいるのかとも思ったのですが、後の昭和ガメラや84年のゴジラでは建物に灯りの入ったミニチュアセットが出て来るのを観ていてミニチュアの出来はそれほど変わらないと思われるのに夜景が魅力的に見えない事を感じた事から「これは作り手の意識的な演出だったのではないか」と思えて来ました。
つまり「室内照明だけで魅力的な夜景を構築するのは意外に難しいのではないか」と言う事です。
ミニチュアの室内灯はどうしても嘘っぽさが強調されてしまう事に作り手が気づいていた証左ではないでしょうか。
(後の平成ガメラの2で「市民退避後の真っ暗な街でガメラが戦う」シチュエーションが復活していますが他の夜景よりもかなりリアル且つ絵になる画面が頻出していました)
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但し、これが逆効果だったケースもあります。「日本沈没」の東京大震災のシーンでは建物の灯りが殆ど無い画面でビルや高速道路の崩壊を描いていましたが、ライティングのせいか何がなんだかわからない画面や妙に寂寥感の漂う光景が目立ちました。
ですので都市部の場合は適度な室内灯や街灯が必要である事も申し添えておきたいと思います。
建物のライトアップは最近の建造物でも良く取り入れられている物ですが、当時の特撮映画ではサーチライトや炎の照り返しなどでそれに近い効果をかなり使っている様です。昔の建物は特にそうですが壁面の凹凸が多く陰影がはっきり出やすい建物等は一方向からのライトアップでかなり陰影を強調されたリアルな雰囲気になります。
街灯でも同じような効果が狙えそうな気もしますが、基本的に下を照らすための灯りなのでライトアップ効果は限定的と思われます。
(昔のウルトラマンのテレスドンやバルタン星人のスチルを参照)
その観点から見て特撮ミニチュア映画で個人的にですが魅力的な夜景(作品の出来不出来とは無関係に「レイアウトに使えそうな夜景」と言う観点でのものです)と思えたのは昭和39年の「三大怪獣地球最大の決戦」という作品に出てくる横浜の夜景でした。
この作品のシチュエーションは他の作品とは異なり「ゴジラが突発的に出現する」シチュエーションだった為灯火管制や停電と言った設定が使えず、建物の灯りの多いシチュエーションを取り入れざるを得なかったものです。
ですので室内灯や街灯が多い場面設定なのですが、この作品では場面の状況を「月夜」に設定する事で上からの光を効果的に取り入れ、周囲の地形や建物のシルエットを演出しやすくしていました。
この事に私が気付いたのは最近ですが、これの他にもサンダ対ガイラ、フランケンシュタインなどでは夜景の中で意識的に空が微妙に明るく見える様な演出を取り入れている事がわかります。
(東宝ではありませんが「ガメラ対ギャオス」では「照明弾を使って夜空を明るくしている」と言う設定で同様の効果を得ています)
そこで再び以前触れた伝説のレイアウトビルダー・John AllenのGD Lineというレイアウトの話になります。
このレイアウトの写真には魅力的な夜景の物が多いのですが、ここでも室内灯や街灯が補助的な扱いとなっています。
後から種明かしをされて知りましたがこれらの夜景はその大半が撮影用のブラックライトを主な光源に使っており灯りのある建物でもその輪郭がはっきりわかる様な照明効果を使っているとの事です。
John Allen氏は商業フォトグラファーが本職だったそうですが、これを見る限りでは夜景の演出について上記の特撮スタッフと同じ認識で画作りをしていたらしいと思われます。
このブログ、本来ならばそれらの写真を付けたい所ですがいろいろと差障りがありそうなので「とにかく観て下さい」としか言えないのがもどかしいのですが(汗)
(この項続く)
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