ちゃ~すが・タマ(冷や汗日記)

冷や汗かきかきの挨拶などを順次掲載

「帰ってきたヒットラー」

2018年12月03日 23時17分49秒 | 映画

最近は、映画をダウンロードして、通勤中にみることができる便利な時代となった。

はじめてそのサービスを使ったのが「帰ってきたヒトラー」であった。英語の映画と思っていたのだが、ドイツ語の映画で言葉がわからんのが、残念だった。

第二次大戦後70年たったドイツによみがえったヒトラーが、町を歩き、コメディショーに登場するや、本人は大まじめであるが・・パロディとして受け止められ視聴者を喜ばす・・はじめはである。それが徐々に第二次大戦前のナチの台頭の時代に重ね合わされていく。しかも、現代の難民への対応への民衆の不満や不安は、ネオナチの台頭、極右政党への共感、自国第一主義など現代ドイツ、ヨーロッパ全体、いや世界全体と言ってもいいが、社会の深部の闇と結びついており、それをヒトラーは似非を否定しつつ、もっと闇の中へと野望ともつかぬ思惑を垣間見せる。最終版の笑いと重なった狂気が不気味である。

昨日、NHKのBSで映像の世紀(10)が再放送され、難民問題を特集していたが、この問題は遠い過去から地続きで、荒廃の結果として、また、その原因として今日までの戦争や社会不安を先導してきたことがわかる。ドイツでは、移民への慣用を旨としたメルケルが選挙で敗北をしたことをうけて、党首を辞任することが現実となった。フランスでは若きマカロン大統領は環境税の導入により抗議デモが暴動化し、その中で極右政党が浸透していく予感がする。自国ファーストのアメリカ・トランプの政策、そしてこの日本でも外国人労働者をめぐる問題、きな臭い匂いが世界中に漂っている。

経済の行き詰まりが表面化すれば、それが一気に爆発するのではないか。だからこそ、今、歴史から学ぶ必要がある。


『仔鹿と少年』のこと

2018年12月03日 15時41分25秒 | 田村一二

『仔鹿と少年』は、もともとはマージョリー・キーナン・ローリングス『The Yearling(イアリング)』というもので、新居格の翻訳で1939年に出されている(『イアリング』(M.K. ローリングス原著、四元社、1939年)。”Yearling”とは動物の満1年子(1歳児)のことをいうが、多くは子馬から成長つつある「明け2歳馬」のことをいう。動物の仔から大人へ、少年の成長をこの題名は象徴している。原作は、アメリカでは、1946年映画化されていた。戦後は『子鹿物語』として紹介され、いろいろな翻訳ものが出されている。

原作は仔鹿と関わる少年の成長とが絡み合って、少年から大人への道行きとして描かれる。そのあらすじは、次のようなものである(Wikipediaより)

舞台は自然豊かなフロリダ州の田舎。バックスター家の気弱な少年ジョディは父親ペニーと母親オリーと暮らしていた。ある日、父親が狩猟中にガラガラヘビに噛まれ、とっさに付近にいた雌鹿を殺し、肝臓で毒を吸い出した。雌鹿に連れ添っていた子鹿を父ペニーから与えられたジョディはこれを飼い始める。子鹿は白い尾にちなんでフラッグ(旗)と名付けられる。ジョディはフラッグを可愛がるが、成長するにしたがってフラッグは作物を食い荒らすようになる。森に放してもフラッグは柵を飛び越え、戻ってきてしまう。たまりかねた母親はフラッグを銃で撃ち、傷を負わせるも死なせるには至らなかった。そしてジョディは自らフラッグを撃ち殺す。悲しみにくれたジョディは家出し、カヌーで川を下るも壊れて難破し、郵便船に助けられる。やがて家出から戻ってきたジョディの心は少年から大人へ成長していた。

『仔鹿と少年』の目次は次の通り。

1.水車/2.趾欠け(ゆびかけ)/3.鶴の踊り/4.牝鹿/5.ガラガラ蛇/6.仔鹿/7.蜜蜂/8.浣熊/9.あらし/10.野営/11.狼狩り/12.クリスマス/あとがき

装幀・挿絵 池内岳彦

あとがきには、伊丹万作のすすめと激励があったこと、新居格の許可があったことなどがかかれている。新居格は、戦前においてパールバックの『大地』を訳出し(1935年)、モダニズムの評論をおこなったことで有名、政治思想はアナキズムといわれているが、賀川豊彦のいとこにあたる人物。伊丹万作や新居格から田村が受けた影響もあるのではないかと思う。この件は、絵画「裸婦」の出展に関連して、唯物論の本などを隠したというような話が『ちえおくれと歩く男』の中にあったようなところが気になるが・・・。

あとがきの最後には、「装幀並びに挿絵は中学二年生である伊丹さんの遺児、岳彦君にやって貰った。訳文の自由な使用を許して下さった新居格氏と共に岳彦君にも深い感謝を捧げたい」とある。

池内岳彦(本名・池内義弘)は、伊丹万作が本当はつけたかった名前から「岳彦」として呼ばれ、自分でも使っていたが、伊丹十三のこと。伊丹十三は、商業デザイナー、俳優、エッセイスト、TVマン、雑誌編集長、映画監督として縦横に活躍した才人であった。

 


南郷太郎『仔鹿と少年』(1948年、大雅堂)

2018年12月03日 14時43分52秒 | 田村一二

 国会図書館で『仔鹿と少年』を検索すると、いくつかのものがヒットする。
 まず、マイクロフィルムの資料として、『仔鹿と少年』(南郷太郎著,池内岳彦 絵  大雅堂  1948)が、 国立国会図書館デジタルコレクション となっており、国会図書館以外も京都・大阪・東京の公立図書館が所蔵しているようである、同一書であるが、児童書総合目録として、ロ-リングズ・マ-ジョリ-・キナン原作]、南郷太郎著というのもでてくる。
 また、「ブランゲ文庫児童書マイクロフィルム所蔵タイトルリスト(読み物) 2010/1/19現在」の中にもこの『仔鹿と少年』がリスト化されていることがわかる。
 この「ブランゲ文庫」というのは、戦後間もない米国の占領下において、GHQが日本の出版物の検閲をするために収集した図書をベースとしたものであり、後に、アメリカのメリーランド大学に寄贈され、寄贈者の名前をとって「ブランゲ文庫」として長年保存されてきたものだった。2014年、国会図書館でデータのデジタル化と目録の公開があったものだった。実は、この「ブランゲ文庫」には、小松左京の三高時代、京都大学在学中に執筆したマンガ、デビュー作などもあり、小松左京のファンの間では注目されていた文庫であった。このブログで書いた小松左京『やぶれかぶれ青春期・大阪万博奮闘記』新潮文庫には、小松の息子小松実盛「『青春期』に書かれなかったことー漫画家としての小松左京」(pp.205-231)があり、「幻の漫画」とそれにまつわる小松の行状が記されている。

 この「ブランゲ文庫」は、1945年から1949年までの日本で出版された印刷物のほとんどを所蔵するものらしく、国会図書館の解説には次のようにある。
「プランゲ文庫に収蔵された図書約73,000冊のうち、児童書は約8,000冊で、絵本、読み物、漫画、ぬりえ、かるた等多様な資料が含まれている。国内機関では所蔵していない資料も数多く、占領下の検閲の実態を示すと共に、この時期の児童文学・児童文化や出版状況を知る貴重な歴史的資料でもある。」

この児童書の一つが南郷太郎の『仔鹿と少年』だった。