教え子である野々村ゆかりは、東京・神田生まれで神田育ちであった。
彼女の父親勇吉は、鍛冶町で医薬品の現金卸商を営んでいた。
そして、母親の千幸は神田駅西口に近いビル地下1階のバー「野バラ」のママであった。
「先生、ゆかりのママに会って」ゆかりが、晃を誘ったのは3月後半の時節であった。
ゆかりの母校がある九段近郊は桜の名称であり、文芸部のメンバーたちは、晃とともに靖国神社の桜をはじめ、千鳥ヶ淵の満開の桜を満喫した。
実は、晃は前日には、福子とともに九段周辺でデートをしていた。
「晃さんは、とてもいい場所で勤務しているのね」福子は満開の桜並木とそのもとでデートするカップルたちの熱い姿に目を奪われていた。
それは、彼女自身が勤務する水道橋駅に近いビル1階にある小さな出版社の傍を流れる神田川沿いの道の桜や、近くの後楽園の桜の様相をはるかに凌駕する光景だった。
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