「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2005・06・04

2005-06-04 05:50:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集「毒言独語」の中の「みんな世の中が悪いのか」と題したコラムから。

 「非は常に、ことごとく他人にあって、みじんも自分にないと、このごろ相場はきまったようだ。
 徹夜マージャンのあげくの居眠り運転だから、恐れいるかと思うと、やっぱり悪いのは国鉄当局で、ひいては政治で、保守反動政権で、自分はなんにも悪くないのである。マージャンを禁じるのは、私生活の干渉だと、組合員の一人は大会の席で弁じた。
 ここはあやまるのが上分別だと、進言する組合員はない。あれば、現時点において、かかる発言をしては当局に乗じられる、それは利敵行為だと、仲間から非難される。
 けれども、夫婦喧嘩だって、非がことごとく細君にあることは希である。そりゃ細君は悪いにきまっている。同じく亭主も悪いにきまっている。その割合は五分と五分か。
 もう天災というものは、存在しなくなったのである。大風が吹こうと、大水が出ようと、それは政治のせいで、人災だといわれる。」

 「非は常に他人にあって、みじんも自分になければ、経験が経験にならない。他人の痛みはおろか、わが子を失った自分の体験も体験にならないから、昔ながらの惨事と新しい惨事はこもごも至る。
 いくら至っても、そのつど人のせいにすれば、惨事もさるもの大挙しておしよせる。居眠りに続く朝寝坊駅、酔いどれ機関士、素通り運転――以上は国鉄だけだが、ほかにもまだまだおしよせてくるはずである。」

   (山本夏彦著「毒言独語」中公文庫 所収)

 
 30年以上前に山本夏彦さんがコラムの中で書かれた「この世の中にニュースはない。」、「十年前に聞いた。百年前に聞いた。千年前に聞いた。」、「すべて十年前の、百年前の新聞に出ていることばかりである。」が、昨日もあり、今日もあり、明日もあるのです。
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