今日の「お気に入り」は、昨日に続いて、盛唐の詩人杜甫(712-770)の「江亭」と題した詩一篇。
原詩、読み下し文、現代語訳は、中野孝次さん(1925-2004)の著書「わたしの唐詩選」(文春文庫)からの引用です。
江亭 江亭 杜甫
担腹江亭暖 担腹(たんぷく)す江亭(こうてい)の暖かなるに
長吟野望時 長吟 野望の時
水流不心競 水流れて心は競わず
雲在意倶遲 雲在って意は倶に遅し
寂寂春將晩 寂々(せきせき)として春将に晩(く)れんとし
欣欣物自私 欣々として物自ら私(わたくし)す
故林歸未得 故林 帰ること未だ得ず
排悶強裁詩 悶を排して強いて詩を裁す
(現代語訳)
うらうらと陽光のあたる所にねそべっていても誰に気兼ねすることなく、詩を口ずさみながら野の景色を眺めている。
川は春のこととて水量ゆたかに流れてゆくが、流れは速くとも心はゆったりし、空にじっとたたずんでいる雲と同じよ
うに、わが思いもゆったりだ。
そしてこの平和な春景色の中で、春は寂寂として晩春に移行しようとしている。物、地上にある生きものはみな欣々
とよろこんでみずからの営みにはげんでいる。自然の秩序に狂いはなく、物みな大きな宇宙の調和の中にあって、自
足している。ただわたしはまだ帰るべき故山に帰れないでおり、そのことがときに心に影を投げるが、そういうとき
は心のもやもやを払うために気をひき立てて詩を作る。詩作がわたしの唯一の自己救済行為だ。
原詩、読み下し文、現代語訳は、中野孝次さん(1925-2004)の著書「わたしの唐詩選」(文春文庫)からの引用です。
江亭 江亭 杜甫
担腹江亭暖 担腹(たんぷく)す江亭(こうてい)の暖かなるに
長吟野望時 長吟 野望の時
水流不心競 水流れて心は競わず
雲在意倶遲 雲在って意は倶に遅し
寂寂春將晩 寂々(せきせき)として春将に晩(く)れんとし
欣欣物自私 欣々として物自ら私(わたくし)す
故林歸未得 故林 帰ること未だ得ず
排悶強裁詩 悶を排して強いて詩を裁す
(現代語訳)
うらうらと陽光のあたる所にねそべっていても誰に気兼ねすることなく、詩を口ずさみながら野の景色を眺めている。
川は春のこととて水量ゆたかに流れてゆくが、流れは速くとも心はゆったりし、空にじっとたたずんでいる雲と同じよ
うに、わが思いもゆったりだ。
そしてこの平和な春景色の中で、春は寂寂として晩春に移行しようとしている。物、地上にある生きものはみな欣々
とよろこんでみずからの営みにはげんでいる。自然の秩序に狂いはなく、物みな大きな宇宙の調和の中にあって、自
足している。ただわたしはまだ帰るべき故山に帰れないでおり、そのことがときに心に影を投げるが、そういうとき
は心のもやもやを払うために気をひき立てて詩を作る。詩作がわたしの唯一の自己救済行為だ。