「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2005・06・03

2005-06-03 05:30:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。


 「ついでながら、私はモダン・リビングで、『動線』とやらをやかましくいうのも、眉つばものだと思っている。リビング・キチンから風呂場へ、風呂場から寝室へ、最短距離で、むだなく、どこへでも行かれるのが、機能的なのだそうだが、たかが十坪や十五坪の豆住宅である。迂回して便所へ行ったところで、何ほどのことがあろう。
 私はちっとも損したとは思わない。むやみに動線を倹約するのは、どういう料簡か。
 けちか。」

 「私はいま、三十余坪の平家に住んでいる。私の部屋から手水場に達するには、端から端まで歩かなければならない。歩いたところで四、五間である。べつだんくたびれることはない。
 縁側もむだ、軒の出の深いのもむだ――あらゆるむだをさがしだして、見つけ次第撲滅せずんばやまぬ精神を、私は怪訝に思っている。
 私はこの世はむだから成っているとみている。そもそも私が生をうけ、こんにちまで生きてきたのは、むだそのものだとみている。私はむだに終始して、いまだにむだ中に埋没している。どうして区々たるむだを争おうか。」

   (山本夏彦著「日常茶飯事」所収)
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