「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2005・06・09

2005-06-09 06:30:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「きっぱり『良心』と言いきるなら男らしいが、皆さん『良心的』とおっしゃる。
 未練である。いさぎよくない。」

 「良心的な大人たちは、いまだに中国に対してすまないと言っている。侵略戦争の罪をつぐなっていない、と嘆息している。それなら朝鮮に対してはなおさらだろう。
 わが国の復興と繁栄の端緒は、この朝鮮戦争にある。朝鮮をはさんで、アメリカと中国が争ったおかげで漁夫の利を得た。
 以来、失業者はなくなるし賃金はあがるし、ついにはレジャーを楽しめるまでになった。
 だからときたま嘆息してみせるのだろうか。
 わが国は、間接的にベトナムに参戦している、それを思えば胸が痛むと、痛がるものがある。ベトナムには中・ソのほうがより参戦している。中・ソ両国民はため息なんぞつきはしない
 個人はもとより、国家の利害は複雑をきわめている。口先だけ潔白ぶると、次第に本当に潔白だと思いこむにいたる。すでに思いこんでいるなら、一度おのが内心を見よ。
 私は良心的な男女を、山ほど見た。それは車内の暴力を見のがす乗客である。行きずりの男に刺されたから、助けてくれとすがると、『私には関係ないことだ』とつき放す者どもである。
 彼らはその場を去れば、天下国家を論じて、中国に、ソ連にすまながる。それは良心ではない。良心的である。」

   (山本夏彦著「毒言独語」中公文庫 所収)
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