今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「きっぱり『良心』と言いきるなら男らしいが、皆さん『良心的』とおっしゃる。
未練である。いさぎよくない。」
「良心的な大人たちは、いまだに中国に対してすまないと言っている。侵略戦争の罪をつぐなっていない、と嘆息している。それなら朝鮮に対してはなおさらだろう。
わが国の復興と繁栄の端緒は、この朝鮮戦争にある。朝鮮をはさんで、アメリカと中国が争ったおかげで漁夫の利を得た。
以来、失業者はなくなるし賃金はあがるし、ついにはレジャーを楽しめるまでになった。
だからときたま嘆息してみせるのだろうか。
わが国は、間接的にベトナムに参戦している、それを思えば胸が痛むと、痛がるものがある。ベトナムには中・ソのほうがより参戦している。中・ソ両国民はため息なんぞつきはしない。
個人はもとより、国家の利害は複雑をきわめている。口先だけ潔白ぶると、次第に本当に潔白だと思いこむにいたる。すでに思いこんでいるなら、一度おのが内心を見よ。
私は良心的な男女を、山ほど見た。それは車内の暴力を見のがす乗客である。行きずりの男に刺されたから、助けてくれとすがると、『私には関係ないことだ』とつき放す者どもである。
彼らはその場を去れば、天下国家を論じて、中国に、ソ連にすまながる。それは良心ではない。良心的である。」
(山本夏彦著「毒言独語」中公文庫 所収)
「きっぱり『良心』と言いきるなら男らしいが、皆さん『良心的』とおっしゃる。
未練である。いさぎよくない。」
「良心的な大人たちは、いまだに中国に対してすまないと言っている。侵略戦争の罪をつぐなっていない、と嘆息している。それなら朝鮮に対してはなおさらだろう。
わが国の復興と繁栄の端緒は、この朝鮮戦争にある。朝鮮をはさんで、アメリカと中国が争ったおかげで漁夫の利を得た。
以来、失業者はなくなるし賃金はあがるし、ついにはレジャーを楽しめるまでになった。
だからときたま嘆息してみせるのだろうか。
わが国は、間接的にベトナムに参戦している、それを思えば胸が痛むと、痛がるものがある。ベトナムには中・ソのほうがより参戦している。中・ソ両国民はため息なんぞつきはしない。
個人はもとより、国家の利害は複雑をきわめている。口先だけ潔白ぶると、次第に本当に潔白だと思いこむにいたる。すでに思いこんでいるなら、一度おのが内心を見よ。
私は良心的な男女を、山ほど見た。それは車内の暴力を見のがす乗客である。行きずりの男に刺されたから、助けてくれとすがると、『私には関係ないことだ』とつき放す者どもである。
彼らはその場を去れば、天下国家を論じて、中国に、ソ連にすまながる。それは良心ではない。良心的である。」
(山本夏彦著「毒言独語」中公文庫 所収)