「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2006・04・14

2006-04-14 07:50:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、中原中也(1907-1937)の詩一篇。

 月夜の浜辺

 
 月夜の晩に、ボタンが一つ
 波打際に、落ちてゐた。

 それを拾って、役立てようと
 僕は思つたわけでもないが
 なぜだかそれを捨てるに忍びず
 僕はそれを、袂(たもと)に入れた。

 月夜の晩に、ボタンが一つ
 波打際に、落ちてゐた。

 それを拾って、役立てようと
 僕は思つたわけでもないが
     月に向かつてそれは抛(はふ)れず
     波に向かつてそれは抛れず
 僕はそれを、袂に入れた。

 月夜の晩に、拾つたボタンは
 指先に沁み、心に沁みた。

 月夜の晩に、拾つたボタンは
 どうしてそれが、捨てられようか? 

  (角川春樹事務所刊「中原中也詩集」所収)
コメント
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