「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

可惜 2006・04・28

2006-04-28 06:35:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、盛唐の詩人杜甫(712-770)の「可惜」と題した詩一篇。原詩、読み下し文、現代語訳ともに、中野孝次さん(1925-2004)の著書「わたしの唐詩選」(文春文庫)からの引用です。詩人五十歳のときの作といいます。

 可惜       惜むべし

   花飛有底急    花の飛ぶこと底(なん)の急が有る
   老去願春遅    老い去っては春の遅からんことを願う
   可惜歡娯地    惜むべし 歓娯の地
   都非少壯時    都(すべ)て少壮の時に非ず
   寛心應是酒    心を寛(ゆる)うするは応(まさ)に是れ酒なるべく
   遣興莫過詩    興(きょう)を遣(や)るは詩に過ぐるは莫(な)し
   此意陶濳解    此意(このい) 陶潜のみ解す
   吾生後汝期    吾が生 汝が期に後(おく)る

 (現代語訳)
   なんの用があって花はこうも早く散るのか。老いの身に願うのはただ春の逝くの遅いことだけなのに、ここは本来なら歓楽をつくすべき所であるが、もはやこの身が少壮でないのが残念だ。年をとったわたしには、酒だけが心をのびのびとひらいてくれるもので、また詩を作るにこしたたのしみはない。この心持ちを最もよく知っていたのは陶淵明だった。同時代に生きておられたら、あの人と共に酒を汲み、詩を作ってたのしんだところなのに。わたしの生れたのがかの人より遠い後世であったのが、なにより残念でならぬ。
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