今日の「お気に入り」は、盛唐の詩人杜甫(712-770)の「可惜」と題した詩一篇。原詩、読み下し文、現代語訳ともに、中野孝次さん(1925-2004)の著書「わたしの唐詩選」(文春文庫)からの引用です。詩人五十歳のときの作といいます。
可惜 惜むべし
花飛有底急 花の飛ぶこと底(なん)の急が有る
老去願春遅 老い去っては春の遅からんことを願う
可惜歡娯地 惜むべし 歓娯の地
都非少壯時 都(すべ)て少壮の時に非ず
寛心應是酒 心を寛(ゆる)うするは応(まさ)に是れ酒なるべく
遣興莫過詩 興(きょう)を遣(や)るは詩に過ぐるは莫(な)し
此意陶濳解 此意(このい) 陶潜のみ解す
吾生後汝期 吾が生 汝が期に後(おく)る
(現代語訳)
なんの用があって花はこうも早く散るのか。老いの身に願うのはただ春の逝くの遅いことだけなのに、ここは本来なら歓楽をつくすべき所であるが、もはやこの身が少壮でないのが残念だ。年をとったわたしには、酒だけが心をのびのびとひらいてくれるもので、また詩を作るにこしたたのしみはない。この心持ちを最もよく知っていたのは陶淵明だった。同時代に生きておられたら、あの人と共に酒を汲み、詩を作ってたのしんだところなのに。わたしの生れたのがかの人より遠い後世であったのが、なにより残念でならぬ。
可惜 惜むべし
花飛有底急 花の飛ぶこと底(なん)の急が有る
老去願春遅 老い去っては春の遅からんことを願う
可惜歡娯地 惜むべし 歓娯の地
都非少壯時 都(すべ)て少壮の時に非ず
寛心應是酒 心を寛(ゆる)うするは応(まさ)に是れ酒なるべく
遣興莫過詩 興(きょう)を遣(や)るは詩に過ぐるは莫(な)し
此意陶濳解 此意(このい) 陶潜のみ解す
吾生後汝期 吾が生 汝が期に後(おく)る
(現代語訳)
なんの用があって花はこうも早く散るのか。老いの身に願うのはただ春の逝くの遅いことだけなのに、ここは本来なら歓楽をつくすべき所であるが、もはやこの身が少壮でないのが残念だ。年をとったわたしには、酒だけが心をのびのびとひらいてくれるもので、また詩を作るにこしたたのしみはない。この心持ちを最もよく知っていたのは陶淵明だった。同時代に生きておられたら、あの人と共に酒を汲み、詩を作ってたのしんだところなのに。わたしの生れたのがかの人より遠い後世であったのが、なにより残念でならぬ。