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「トリガーは旅人が二首を贈りたり以下はその序を箇条書きにて
(松浦河マツラガハに遊びて贈り答ふる歌八首、また序)」
「1.たまたまに松浦マツラに往きて逍遥すそこであいたり釣りする乙女()」
「2.彼女らはとてもきれいで並びなく切れ長の眉ピンクのほっぺ()」
「3.乙女等は気高く風流ミヤビでつい聞ける神仙なりし出自はいずこ()」
「4.娘ヲトメ等は皆微笑みて答えるに『われ等漁夫の子家も貧し』と()」
「5.ただ単に水に遊んで山に行きたまには釣りし霞眺める()」
「6.貴客ウマヒトに相遇アひ感動たへずして心尽くして気持ちを伝う()」
「7.時に日は山西に落ち、驪馬リバ去なむ懐抱を申ノべ歌を贈れる()」
「本当に旅人は娘等に遭いたるかデジャブのような出来事なりし
(余ワレ暫く松浦県マツラガタに往きて逍遥し、玉島の潭に臨みて遊覧するに、
忽ち魚釣る女子等に値アへり。花容双び無く、光儀匹ひ無し。柳葉を眉中に
開き、桃花を頬上に発ヒラく。意気雲を凌ぎ、風流世に絶えたり。僕ワレ問ひ
けらく、『誰が郷誰が家の児等ぞ。若疑ケダシ神仙ならむか』。娘ヲトメ等
皆咲みて答へけらく、『児等は漁夫の舎イヘの児、草菴の微イヤしき者、
郷も無く家も無し。なぞも称ナを云ノるに足らむ。唯性水に便り、復た心に
山を楽しぶ。或は洛浦に臨みて、徒に王魚を羨トモしみ、乍アルイは巫峡に
臥して空しく烟霞を望む。今邂逅ワクラバに貴客ウマヒトに相遇アひ、感応に
勝へず、輙ち款曲を陳ぶ。今より後、豈に偕老ならざるべけむや』下官オノレ
対ひて曰く、『唯々ヲヲ、敬みて芳命を奉ウケタマはりき』時に日は山西に
落ち、驪馬リバ去なむとす。遂に懐抱を申ノべ、因て詠みて贈れる歌にく)」
「漁りする海人の子どもと人は言へど見るに知らえぬ貴人ウマヒトの子と(#5.0853)」
「魚採る漁師の娘だというけれど一目でわかるうま人の子と()」
「玉島のこの川上に家はあれど君を恥ヤサしみ顕はさずありき
(答ふる詩ウタに曰く #5.0854)」
「玉島のこの川上にすみたれど恥ずかしくありはっきり言わず()」