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「無常観万葉の世もあることを鎌倉だけの特許でなけり
(俗ヨの道の仮に合ひ即ち離れ、去り易く留まり難きを悲歎する詩ウタ一首、
また序)」
「竊ヒソカに以オモヒミるに、釋・慈の示教は〔釋氏慈氏を謂へり〕、
先に三帰〔仏法僧に帰依するを謂へり〕、五戒〔謂ふは、一に不殺生、
二に不偸盗、三に不邪婬、四に不妄語、五に不飲酒をいへり〕を開きて、
遍く法界を化オモムけ、周・孔の垂訓は、
前サキに三綱〔謂ふは、君臣・父子・夫婦をいへり〕、
五教〔謂ふは、父義・母慈・兄友・弟順・子孝をいへり〕を張りて、
斉しく邦国を済スクふ。故カレに知る、引導は二つありと雖も、悟を得たるは
惟コレ一つなりと。
但タダ以オモヒミれば世に恒の質無し、所以カレに陵と谷と更に変る。
人に定まれる期無し、所以カレに寿と夭同じからず。目を撃つの間、
百齢モモヨ已スデに尽き、臂ヒジを申ぶるの頃ホドに、千代チヨも亦空ムナし。
旦アシタには席上の主となり、夕には泉下の客となる。白馬走り来るとも、
黄泉クワウセンは何イカにか及ばむ。隴上ロウジヨウの青き松は、空しく
信釼を懸け、野中の白き楊ヤナギは、但悲風に吹かる。是に知る、世俗本より
隠遁の室無く、原野には唯長夜の台ウテナのみ有り。先聖已に去り、
後賢留まらず。如し贖ひて免るべきこと有らば、古人誰か価アタイの
金コガネ無からむ。未だ独り存ナガラへて遂に世の終を見る者を聞かず、
所以カレに維摩大士は玉体を方丈に疾ヤみ、釋迦能仁は金容コンヨウを双樹に
掩オホへり。
内教に曰く、『黒闇の後に来らむを欲せずは、徳天の先に至るに入ること
莫かれ』と。
〔徳天は生なり。黒闇は死なり。〕故に知る、生必ず死有り、死若し欲ネガは
ざらむは、生まれぬには如かず。况乎マシテ縦ひ始終の恒数を覚るとも、
何にぞ存亡の大期を慮アモヒハカらむ。俗道の変化は目を撃つの如く人事の
経紀は臂を申ノブルの如し。空しく浮雲と大虚を行き、心・力共に尽きて
寄る所無し()」
「無常観万葉の世もあることを鎌倉だけの特許でなけり
(俗ヨの道の仮に合ひ即ち離れ、去り易く留まり難きを悲歎する詩ウタ一首、
また序)」
「竊ヒソカに以オモヒミるに、釋・慈の示教は〔釋氏慈氏を謂へり〕、
先に三帰〔仏法僧に帰依するを謂へり〕、五戒〔謂ふは、一に不殺生、
二に不偸盗、三に不邪婬、四に不妄語、五に不飲酒をいへり〕を開きて、
遍く法界を化オモムけ、周・孔の垂訓は、
前サキに三綱〔謂ふは、君臣・父子・夫婦をいへり〕、
五教〔謂ふは、父義・母慈・兄友・弟順・子孝をいへり〕を張りて、
斉しく邦国を済スクふ。故カレに知る、引導は二つありと雖も、悟を得たるは
惟コレ一つなりと。
但タダ以オモヒミれば世に恒の質無し、所以カレに陵と谷と更に変る。
人に定まれる期無し、所以カレに寿と夭同じからず。目を撃つの間、
百齢モモヨ已スデに尽き、臂ヒジを申ぶるの頃ホドに、千代チヨも亦空ムナし。
旦アシタには席上の主となり、夕には泉下の客となる。白馬走り来るとも、
黄泉クワウセンは何イカにか及ばむ。隴上ロウジヨウの青き松は、空しく
信釼を懸け、野中の白き楊ヤナギは、但悲風に吹かる。是に知る、世俗本より
隠遁の室無く、原野には唯長夜の台ウテナのみ有り。先聖已に去り、
後賢留まらず。如し贖ひて免るべきこと有らば、古人誰か価アタイの
金コガネ無からむ。未だ独り存ナガラへて遂に世の終を見る者を聞かず、
所以カレに維摩大士は玉体を方丈に疾ヤみ、釋迦能仁は金容コンヨウを双樹に
掩オホへり。
内教に曰く、『黒闇の後に来らむを欲せずは、徳天の先に至るに入ること
莫かれ』と。
〔徳天は生なり。黒闇は死なり。〕故に知る、生必ず死有り、死若し欲ネガは
ざらむは、生まれぬには如かず。况乎マシテ縦ひ始終の恒数を覚るとも、
何にぞ存亡の大期を慮アモヒハカらむ。俗道の変化は目を撃つの如く人事の
経紀は臂を申ノブルの如し。空しく浮雲と大虚を行き、心・力共に尽きて
寄る所無し()」