自家製醤×発酵中華「桜梅桃李」(オウバイトウリ)
最寄駅は静岡駅北口、江川町通り沿いのビルの地下1階というロケーション。
オーナーシェフ、飯岡靖章氏は自然派中華の「月世界」さんほか様々な店で
調理技術の研鑽及び経験を積んだ人物。
自分の店を郷里で開くという強い志を持ち、静岡に戻られたのは去年のこと。
おまかせで料理を頼めるシェフが東京から去り、寂しい思いをしていたのですが、
これもまた仕方のないこと。ですが、2018年2月23日にオープン(プレオープン22日)が
決まったという知らせを聞き、居ても立っても居られずの日々。
門出を祝うためにもぜひとも訪れたい。
幸い静岡はそれほど遠くありませんから、高速バスを使い1泊で計画を立てました。
わざわざ、通りまで出迎えに来てくれた飯岡シェフ。人間味のある方ですから、
その人望も厚く店の入り口には立派な胡蝶蘭が並んでいました。
店内に入ると、真っ先に目に飛び込むのは、棚に配列された自家製醤などが入った密閉容器。
「月世界」さんを彷彿とさせ、シェフの経歴を知る一人としてちょっとにんまり。
また、厨房には臘腸(腸詰)が吊るされ、食欲をそそる絶景美に期待値は上がるばかり。
(ノブロー) すんげえな。店内にも6~7個、開店祝いの胡蝶蘭が並んでいるだよ。
オープンしたてのモダンな店内はテーブル席とカウンター席でレイアウト。
席の間隔も十分で、ゆとりを感じさせる素敵空間です。
調理は飯岡シェフが一人で担当。
「わざわざ、東京からお越しいただきありがとうございます。」
そう声をかけてくれたのは、お手伝いに来ているという感じの良い男性スタッフさん。
脇を固める彼らを含め、この日は3人体制での切り盛りです。
上着を預け、私達が希望したのはもちろん、シェフズテーブル。
カウンター席ならシェフとの距離が近いから会話も楽しめるし、ご馳走感のアップも間違いなし。
テーブル・セッティング:カトラリーレスト、箸、スプーン、ペーパーナプキン
テーブルクロス:なし
卓上調味料:なし
その他:メニュー
着座後:タオルおしぼり(手渡し後、直置き)
※ペーパーナプキン上のショップカードは私が置いたものです。
当店は自家製醤と発酵をテーマに心と体に優しい中華を提供。
事前にシェフと相談の上、おまかせコース(2名様より)@5,000×2を
お願いしていますが、卓上に用意された菜譜によると、
地のものを組み込んだ下記の12品(提供は順不同)になります。
・自家製甘酒と魚貝の老酒漬け
・富士の国直火焼き叉焼
・由比港の桜エビと細切り豆腐の和え物
・貴州省名産 黒わらびの冷製春雨(自家製発酵唐辛子仕立て)
・富士の鶏 自家製沙茶醤で
・台湾A菜の咸魚の蝦醤炒め
・河津の金目鯛と静岡麻機蓮根の客家民族式フリット
・河津の金目鯛の姿蒸し 自家製ひしお汁で
・苗族伝統の白酸湯と黒わらび餅の煮酸菜腊肉
・富士の国の肩ロースを生胡椒醤で
・香港正宗海老雲吞麵
・胡桃と甘酒のお汁粉
なお、料理は一部を除き、すべて各自分での提供で取り分けは銘々の作業。
サーブ時にも口頭説明を受けられるスタイルです。
生ビールで乾杯後は、次のお酒のチョイスタイム。
紹興酒の用意もありますが、当店は中華とワインのマリアージュも楽しめるお店。
飯岡シェフは勉強熱心でソムリエ資格も取得しているから、今日の料理に合う白ワインを
私達の懐事情にあわせて、選んでもらいましたよ。
La Pettegola Vermentino Toscana Banfi@4,800
辛口でフレッシュ&フルーティー。後口にキレの良さも感じました。
自家製甘酒と魚貝の老酒漬け
・しじみ(青森産)、ツブ貝(静岡県御前崎)、天使海老
ツブ貝を取り出すために爪楊枝もセット。
しじみの味付にはあと少しニンニクのピリ辛さを望みたかったのですが、
これは私の好みの問題。若干甘めながらも、生姜がきっちり効き、
味の落ち着かせどころはなかなかのもの。
また、ツブ貝はシコシコとした健やかな歯応えと肝のコクが楽しめ、
天使海老はねっちりとした身の甘みを引き立てる漬け加減で申し分なしです。
こんな美味しいツブ貝は「虞妃」 さん以来かも。思わず笑みがこぼれましたよ。
余談ですが、静岡人にとってツブ貝は小さい頃から食べられる身近な食材で、
家庭では出汁で煮ておつまみ的にいただくのだそう。
由比港の桜エビと細切り豆腐の和え物
桜エビの町として有名な由比港産。
その桜エビを細切り豆腐と香味野菜で和え、調味はシンプルに黒酢と塩、
旨みは自家製の醤(ひしお)から。
味の素やごま油の効いたベタな拌干豆腐丝とは異なり、桜エビの繊細な味を大切に、
黒酢の加減も妙妙で、淡くまろやかであっさり。
中華前菜の定番も地物の素材を組み合わせ、ドラマティックに大変身していましたよ。
飽きのこない味わいで、美味しかったなあ。
なお、このお皿は雲南省で求めたタケノコ形の器なのだそう。
富士の国直火焼き叉焼
静岡の銘柄豚「ふじのくに」の豚肩ロースの直火焼き叉焼。
(ノブロー) 付け合わせはベビーリーフだで。
漬け込んだ自家製タレの味に火入れも上々で、脂部分はサクッサクッと小気味よい歯触り。
噛みしめると嫌味のない甘さと肉は弾力に優れ、旨みたっぷりですこぶるジューシー。
空腹で訪れていますが、私達にしてはそれを差し引いてもバクバクと物凄い
スピードで食べていて、時計を見て驚きました。
素材、調味料ともに質の良い美味しい料理に胃袋は正直なんですね。
もっと食べたいと過敏に反応。さらにお腹が空いてきました。
貴州省名産 黒わらびの冷製春雨(自家製発酵唐辛子仕立て)
麺状の蕨根粉(わらび粉)に、香菜、クラッシュナッツ、白ごま、唐辛子などをトッピング。
香ばしいカリカリ食感を添えるのは油葱酥かしら?
黒酢をベースとした酸味のあるタレに自家製発酵唐辛子が馴染み
ここへナッツが入ることにより食感にリズムが生まれ、香菜が超絶にマッチ。
つるつるとした喉越しの春雨は黒く歯応えがあり、発酵系の芳醇な旨味が
まろやかな甘辛さとなって後を引く美味さです。
連れはえらく気に入った様子で、美味い、美味いを連発していました。
富士の鶏 自家製沙茶醤で
蒸し鶏は豆モヤシをクッションに頂には白髪ネギと香菜を据え、
まるで富士山のような美的なフォルム。器も綺麗だ。
(タクロー) しっとりとした鶏肉はもちろん静岡の銘柄鶏「富士の鶏」だで。
メニューでは、豚も鶏もあえて「富士」に統一していると思うだ。
沙茶醤は、大地魚などの魚介をベースにニンニク、ゴマ、香辛料、油などを加えた
調味料ですが、ありきたりな沙茶醤とは一線を画し、自家製力が光り
金山寺味噌のような味の側面をもち、その旨みが強く、むっちりとした鶏肉を
美味しく食べさせることに一役かっています。
――コクの深い旨味の源泉は、自家製の醤(ひしお)――。
(寝太郎) この味、月世界スピリッツだけではない繊細さも持ち得ているね。
台湾A菜の咸魚の蝦醤炒め
また、当店は香港好きの方々にも嬉しいお店。
蝦醤炒めについては、香港、大澳張財記さんの蝦醤を使い調理してくれました。
これがズバリ香港味で、ひと口目で心射抜かれました。
某メーカーのものを使い調味した味とは全然違うのです。
シェフは香港にも精通し、知識量が豊富なうえに研究熱心。
ちょこちょこと現地を感じさせてくれる“味”が登場しますから楽しみが尽きません。
コース料理のメインは清蒸鮮魚。
東京では出来ないお値段で、ハタも考えてくれていたようですが、
静岡と言えばやはり金目鯛でしょう。
河津産で鮮度の良さは一目瞭然!今回は半身を次のフリットに使ってくれるそうです。
河津の金目鯛の姿蒸し 自家製ひしお汁で
カブトはちゃんと姿蒸しに。下には細切り豆腐が潜んでいます。
目玉周りのゼラチン質がもりもりと盛り上がり、ぷるっぷるでマジやばい!!
――ごくり。こんな隆起した目玉見たことないわ。
こうして、目玉をめぐり狂喜乱舞。そして恍惚のおしゃぶりタイムに突入。
私自身、絶対の“清蒸の神”と崇めるのは、閉店した「艇家大牌トン」さん
(現在の「Nomuka」)の五十嵐氏であり、ナンプラーを効かせたタレが動かしがたい
好みのツボですが、当店のひしお汁を使ったタレは、まろやかで濃すぎず、
素材の味を大切にした味加減で、ふっくらとしてしっとりとした身に
皮のとろんとしたゼラチン質もご馳走で、ハタを凌駕する美味さに感動。
半身とは思えないジューシーさで物足りなさは一切なしです。
他では食べられないであろう反則級の清蒸鮮魚に出会え、私達も足を運んだ甲斐が
あったというものです。
この清蒸鮮魚に勝てる清蒸魚ってそうないんじゃあないかしら。うんまい
河津の金目鯛と静岡麻機蓮根の客家民族式フリット
雲南茶葉orレモンリーフの悩ましい二択。
フリットの風味づけにより力を発揮してくれそうなレモンリーフでお願いしましたが、
ご厚意で、台湾、高山烏龍茶をプラスして提供してくれました。
静岡県の麻機(あさはた)蓮根は里芋のようにねっちりとしてシャキッと食感。
さらさらのガーリックチップに清涼感のあるリーフらが相まって、
軽やかで精妙な味わい。
(レンタロー) 香り立つフリットで、金目鯛も蓮根も美味いだ。
(レンタロー) シェフから味のお試し的にもろうた酢豚だで。
こいは、香り格別!味に重たさがなくて、うまうまなんだ。
ぜひ店に行って食べて欲しいだ。
(レンタロー) こいは、雲南ポルチーニと金華ハムの豆腐煮込み。優しい味だで。
(管理人:イメージ) レンちゃんたち、最近グルメレポに参加しないけど、
飯岡シェフが大好きだもんね。応援しているのよね。
苗族伝統の白酸湯と黒わらび餅の煮酸菜腊肉
甘味をつける酒醸(チューニャン)、酸菜は自家製で、黒わらび餅は
雲南省で買い付けてきたのだそう。
しっかりとした酸味に干した腊肉のフレーバーが共存するシェフの意気込みと
愛情を感じられる1品です。
富士の国の肩ロースを生胡椒醤で
グリーン色の生胡椒はインドネシア産、手前の黒っぽいものがタマネギ醤とのこと。
健やかな歯触りの豚肩ロースを噛みしめつつ、生胡椒をつまむと、はじけるような食感で、
フレッシュな青い芳醇が口に広がり、タマネギ醤と合わせていただくと味のアクセントに。
香港正宗海老雲吞麵
(寝太郎)「何洪記」リスペクト!大地魚が香るよー。
月世界時代に、「何洪記」さんをベンチマークとして作ってくれた雲吞麵に感銘を受け、
今回のコース料理に組まれていることを知り、本当に懐かしく、
この〆の麺を楽しみにしていました。
天地返し不要!
雲吞の餡はエビと豚のウデ肉を使用。締まった肉とエビのぷりぷり食感を楽しめ、
弾力に富み中心に芯のような、しなやかなコシをもつゴムゴムとした極細麺に、
大地魚を使った雑味のないスープは、その濃度が高く旨味の層が深い。
久しぶりにいただけて良かったわあ。
胡桃と甘酒のお汁粉
胡桃の温かいお汁粉に黒豆のきな粉がかかっています。
とろみづけには酒醸(チューニャン)を使い、ぽってりとた口当たりで、
余韻を残す綺麗な甘さ。この味、パーフェクト!大いに気に入りました。
(レンタロー) 最高にうめえ汁粉だ。シェフはデザートの腕も確かだな。
食後には台湾の高山茶のサービスを受けられ
会計は、追加の白酒(数杯)ほかを含め、1人当たり9,000円ほど(千円未満四捨五入)。
同じ「月世界」さんでの経歴を持つ、発酵系調味料の名手、小山内シェフの
びんびんに尖った感じや、進藤シェフのおおらかで男っぽさを感じさせる料理とは
別の繊細な味の魅力があり、生まれ育った地元静岡の豊かな海の幸、山の幸という
強力な武器を手に入れ、現地を含むさまざまな場所での修業や食べ歩きで得た自在さで、
伸び伸びと展開される飯岡ワールド。
今回のおまかせコースをいただき、シェフが郷里での開店にこだわった意味が
胃の腑に落ち、それを堪能させてもらいました。
訪問日はシェフのお人柄も強く反映しているのでしょう。
地元のお客様からの愛されっぷりも凄くて、満席状態。
また、オープンして間もないのですが、早くも翌日には40名様での貸切が
予定されているのだそう。県内一の中華料理店になる日も近いのではないかしら。
頻繁にはうかがえませんが、交通費をかけてでも、お邪魔したい1軒であります。
桜梅桃李(OUBAITOURI)
静岡県静岡市葵区昭和町3-17 第一秀和ビルB1F
TEL 054-252-0011
営業時間/17:00~翌1:30(L.O.24:00)
定休日 日曜日