数ヶ月前になるが、ある日曜日の夕方、佐世保の夜景を見に行こうと女房どのと車で出かけた。
西九州自動車道が延伸し、この春には我が家から車で5,6分の所に新しいインターチェンジができた。
新たに供用されるようになった区間のうち港インターから海の上を通り、佐世保市街地を見下ろし、弓張岳を貫くトンネルに入るまでの眺めが実にいい。とりわけ夜景はなかなかのものだ。
それにしても、人間のすることはどうだ。海原に道路を伸ばし、山腹に巨大な穴を開ける。利潤・利便・支配、人間の欲求は留まるところを知らない。
眺めがいいとか、子供や孫の住む福岡・大村が近くなったと、ただただ喜んでばかりはいられないだろう。
陽が落ちるまでには間があった。
夕食をとるため腹をすかそうと、2人して日本一長いアーケードを歩くことにした。
アーケードの四ヶ町商店街の端からぶらぶらと歩き始め三ヶ町商店街の端まで来たところで、たった今、客を見送りに出てきた店員の方に自然と視線が行った。
気が付くと彼は私を見てニコニコと微笑んでいた。瞬間、なぜ彼が微笑んでいるのかが分からなかったが、ややあってその謎は驚きと共に消えた。微笑みの主は高校時代の親しい友だった。
すぐに彼と分からなかったのは彼がユニフォームに帽子をかぶっていたからだけではなかった。彼の前の仕事からして目の前の情景は思いもよらないことだったのだ。
店の名は「ケバブ・スタンド・プラス」、「ケバブ」とはトルコやイランで広く親しまれている肉料理だという。それをファーストフードにして販売している。最近オープンしたばかりだという。
店頭で「ケバブ」について熱く語る彼の話を制し、とにかく食べてみようと女房どのと店に入った。
店内は、こざっぱりとしていた。店に入るとすぐに彼の甥っ子になるという青年を紹介された。笑顔の爽やかな青年だった。2人で店をやっているという。
彼の店では、焼いた肉をそぎ落とし、それを内部が空洞になっている薄いパンの中にサラダと共に挟んで出している。
美味しかった。
私たちに続いてお客さんが入ってこられたので長居は無用と、食べ終わるとすぐに店を後にした。
彼とは高校で知り合った。誘われるまま度々彼の家に泊りがけで遊びに行ったりする間柄だった。
高校を出た後、それぞれの道を歩み始めてからは会ってゆっくり話すこともなくなったが、私がこの町で暮らすようになってから、彼の子供が小学生の頃に女房どのが受け持つというような巡り合わせにあった。
彼は高校生のころからバイタリティーあふれる男だった。彼の意気消沈した姿を見たことがない。常に笑顔で夢を語っていた。
そして、この日もあの頃と同じように笑顔で生き生きとして店のことを話してくれた。
人生はドラマチックだ。