のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

言葉の虫めがね/俵万智

2007年05月03日 13時14分04秒 | 読書歴
■内容
 たとえば万葉集をひもとけば、千年以上前の言葉がそこにある。
 私が口ずさめ、千年の時空を越えて、鮮度を落とすことなく
 言葉は蘇る。言葉は、永遠なのだ。けれどもきのうの「好き」と
 きょうの「好き」は違う。言葉は、いまの気持ちを伝える
 一瞬のものなのだ。
 読むこと、詠むこと、口ずさむこと。言葉を観察し、発見する
 エッセイ集。

■感想 ☆☆☆*
 第一部は現在の若者が使う言葉について、作者の考察と
 想いが綴られている。1999年発刊当初の雰囲気が
 伝わってくる。いまや当たり前のように使われている言葉や、
 既に死語となってしまった懐かしい言葉が8年間という時の
 流れを多様に感じさせてくれる。

 第二部は古いものから新しいものまで、様々な短歌や
 短歌作家や作品集を作者独特の視点で鑑賞している。
 短歌に積極的に触れる機会をあまり持たない私にとっては、
 親切極まりない入門書だった。
 短歌は極めて短い詩の形式だ。だからこそ、「一部」では
 なく「まるごと」琴線に触れ、心に残すことができる。
 何度も繰り返し味わい、魅力と本質を味わいなおすことが
 できる。そういった短歌自身の魅力を優しく教えてくれる
 一冊だった。
 また、鑑賞の視点が備わっていない私にとっては
 それぞれの短歌に対する考察が素直に嬉しかった。
 短歌を読むことに慣れていない私は、ついつい短い言葉を
 読み飛ばしてしまい、言葉をじっくり味わうことができない。
 だからこそ、それぞれの歌の味わい方を丁寧に伝えてくれる
 本書のような存在はありがたい。

 今回の一冊で最も心に残った歌
    老ふたり 互に空気となり合ひて
       有るには忘れ 無きを思はず


 互いに空気のような存在となった老夫婦がお互いの存在を
 「あたりまえ」だと感じている様子を優しく暖かい視点で
 捉えている。「空気のような存在」になれる幸せを感じた
 一首だった。「いなくなるなんてことを考えられない」と
 思えるまでの間には、単に一緒に年月を重ねただけではない
 何かがあるのだろう。そういったものをたった31文字で
 伝えられるすごさ、31文字だからこそ伝わってくるすごさ。
 日本語の美しさをしみじみと感じた。

こんな考え方もある/佐藤愛子

2007年05月03日 12時46分33秒 | 読書歴
■内容
 「幾つになってもすぐに興奮して我を忘れる癖が私にはある。
 それともうひとつ、幾つになってもベールをかぶせてものを
 いうことが出来ない。心にないことはいえない、というのは
 子供のうちは美点だが、おとなになると欠点だと、よく人から
 教えられた。しかし教えられれば教えられるほど、ますます
 直情径行になって行く」と自戒する憤りの愛子が、自分で冒険を
 回避し、ノンベンダラリと平穏無事に生きて、生甲斐がないと
 ボヤいている現代人にみまう、元気いっぱいのカウンターパンチ。

■感想 ☆☆☆*
 実は佐藤愛子さんの小説を読んだことがない。
 けれども、彼女のエッセイは何冊も読んでいる。
 何度も読み返している。エッセイが苦手だった私だが、
 彼女のエッセイを読んで、苦手意識を克服した。
 それどころは「疲れているときはエッセイのほうがいい。」と
 積極的に手に取るようになった。

 本書でも佐藤さんは怒っている。憤然と自分の意見や考えを
 述べている。「最近の○○はケシカラン」と息巻いている。
 そんな彼女の文章を読んでいるだけで元気が出てくる。
 彼女の随筆から知る限り、彼女の人生はぶつかって転んでの
 繰り返しで、よくよく考えると、満身創痍の状態なんじゃないか
 と思うこともある。けれども彼女はいつだって元気なのだ。
 「こんなこと、なんでもない」の一言で、今日も元気に怒り散らす。
 私は彼女のエッセイが好きだ。
 それはつまり、彼女の生き様がすきなんだと思う。

 本書では、佐藤さんの両親や兄の思い出も述べられている。
 四人の息子と妻を捨てて佐藤さんの母親と一緒になった
 小説家 佐藤紅禄の破天荒な人生、彼を受け入れ、女優として
 生きる夢を諦めた母親の誇り高い人生、そして次々に不良に
 なっていったという腹違いの四人の兄たちのひとり、
 サトウハチローのユーモアたっぷりの人生、どれもが
 佐藤さんの中に息づいていて、絆というものをしみじみと
 感じ入らせてくれる。

 「父母は殊更な教育を私の上に施さなかったが、まぎれもなく
  私は父母の子である。明瞭に父母から受け継いだもので
  私は成り立っている。
   他人は何と思おうと私はそれが満足である。」

 どこまでも潔く、勇ましい佐藤さんの魅力を改めて感じた一冊だった。