のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

配達あかずきん/大崎梢

2008年11月04日 22時52分39秒 | 読書歴
86.配達あかずきん~威風堂書店事件メモ~/大崎梢
■ストーリ
 「いいよんさんわん」―近所に住む老人に頼まれたという謎の探求書リスト。
 コミック『あさきゆめみし』を購入後、失踪した母の行方を探しに来た女性。
 配達したばかりの雑誌に挟まれていた盗撮写真。
 駅ビル内の書店・成風堂を舞台に、しっかり者の書店員・杏子と勘の良い
 アルバイト店員・多絵のふたりは、さまざまな謎に取り組んでいく。
 元書店員が描く本格書店ミステリ。

■感想 ☆☆☆*
 うっかりシリーズ3作目から読んでしまった「威風堂」。
 第1作目、2作目を見つけたため、喜び勇んで借りてきた。

 カテゴリは「日常の謎」。本屋の店員が遭遇したちょっとした謎に挑む話。
 「殺人」も「盗み」もないけれど、シリーズ1作目の第1話は見事、
 犯罪に結びついていた。その結びつき方が見事で、第1話から威風堂の
 世界にすっかり入り込んでしまった。

 けれど、この本の主役は、「謎」ではなく、あくまでも「本屋」や
 「本屋店員」。本好きには身近な存在の「本屋」について、またそこで
 働く人々について、私はまったく知らなかったことを思い知らされる。
 本屋の店員さんは、本が好きでこの職業を選んだ人がほとんど。
 本が好きだけれど、本が好きという気持ちだけでは成り立たない本屋さん。
 「本を売っているところ」という認識以上に、様々な仕事があふれている
 本屋さんの魅力をあますところなく伝えてくれた。
 読書離れだの、大変な出版不況だのと言われ続けているここ数年、
 雑誌の廃刊も相次いでいて、一読者にすぎない私でさえ、その不況ぶりを
 肌で感じることも多い。それでも、本が好きだからこそ、続けられる
 本好きのための職業なんだろうな、とヒロイン杏子さんを微笑ましく
 見守った。

 読み終えた後、本や雑誌は、コンビニではなく、本屋で買おう、とか
 お気に入りの本屋をひとつ決めて、そこで本を買うようにしよう、とか
 そういった小さな決意をいくつかした。
 本屋さんを心から応援したくなる本。
 本好きさんには、ぜひ読んでほしい。

 また、ラストのおまけ、書店員さんたちの座談会もお勧め。
 本屋さんが読んだこの本の感想によって、この本がかなり現実の
 書店業界を反映させていることが分かる。書店員さんの
 フィクション抜きの経験談も、本編とは別に1冊にまとめてほしいほど
 おもしろい。この作品のサブタイトルが決まっていく過程も読めて
 お得な気分にさせられるおまけでした。

野生の証明/森村誠一

2008年11月04日 22時49分45秒 | 読書歴
85.野生の証明/森村誠一
■ストーリ
 山村で起こった大量殺人事件の三日後、集落唯一の生存者の少女が
 発見された。少女は両親を目前で殺されたショックで「青い服を着た
 男の人」という以外の記憶を失っていた。多くの人命を奪った事件で
 あったが、まったく手がかりは残されていなかった。しかし意外な
 ところから、事件の糸口が見つかり・・・。
 人間の心奥に潜んだ野性を鋭く追求した作品。

■感想 ☆☆☆
 「時代」を感じさせられ、その世界観にあまり入り込めなかった
 「人間の証明」と比べると、「野生の証明」はしっかり物語の中に
 入り込んで楽しむことができた。しかし、それは「時代を感じさせない」
 わけではなく、どちらかというとSFやファンタジーのように
 まったく異なる世界のことのように思えたからかもしれない。
 リアリティなど考えず、その作られた世界に入り込み、楽しむことが
 できた。
 有力な財閥一族に市の警察や新聞、政治が牛耳られていたり
 自衛隊の特殊部隊が人里離れた村で特殊訓練をしていたり、
 その村が昔話に出てくるようなだったり、と割と荒唐無稽で、
 この小説は、発表された当初、どういったふうに読まれていたのだろう
 といらぬお世話的な感想を抱いてしまった。
 だからといって、この作品がおもしろくないわけではない。
 「ヒロイン」だと思っていた女性が中盤で亡くなってしまったり、
 主人公だと思っていた男性が結局のところ、いい人なのか悪い人なのか
 終盤まで判断がつかなかったりするため、最後までドキドキしながら
 ストーリを追うことができた。
 ラストのオチまで、みごとにSF的、ファンタジー的。
 面白かったけれど、読み終わって少し脱力してしまった点は否めない。

 ちなみに、角川映画で有名なシーンは、小説内にはありません。
 この作品の映画化、しかも角川作品、となると、
 かなりのトンデモ映画なのではないかと期待が膨らみ
 ちょっぴり見てみたい気もするのです。