廊下を歩きながらバスルームを見たら、帰宅後シャワーを浴びた夫が鏡の前でなにやら妙な動きをしている。
両腕を顔の前で交差させたり、その腕が上のほうにゆっくり上がったかと思うと、今度は開きながら降りてきたり。
腕だけじゃなく、肩も首も上半身も微妙に角度を変えつつ動いていて、まるで太極拳みたいにみえる。
「何やってんの?」
と声を掛けると、夫は動きながら言った。
「わかんない」
「( ゚Д゚)ハァ? どういうこと?」
「僕の意思とは別に勝手に動くんだもの」
「えええー!なにそれ!」
夫の仕事は建設業なので、1日中肉体労働。
家で毎日ストレッチをしていても、身体が凝ることがある。
数日前、シャワーを浴びたあと、ふと鏡の中の自分を見たら、勝手に体が動きを始めたのだという。
「なにこれ、なにこれ、なにこれ」
と戸惑いつつも動きは止まらず、戦うのをやめてその動きに任せてみたら、それは数分で終わり、終わったあとは恐ろしく体がスッキリしていた。
どの動きも今までやったことがないものばかり。
「だからね、身体の声を聞いてるわけなんだよ」
「ふーーん」
夫はスピリチュアルな知識は全然知らないし、それほど興味もないのに、私から見れば、どこか イっちゃってる 突き抜けているようなところがある不思議ちゃん。
心が薄汚れている私には蚊しか見えないが、庭で妖精を見てしまうのも夫で、
バリ島で出会った友人が宇宙人だった(のではないか)というのも夫で、
メネフネ(たぶん)に家事を助けてもらう(一人でいたときに乾燥機にいれたものが勝手に外に出してあったとか)のも夫で、
「日本に行け」と毎日ささやきかけてくる心の声に負けて、仕事も住まいも車もすべてを投げ出して日本に行って人生変えたのも、夫。
だから、勝手に体が動くなんてことがあっても、まあそれほど驚きはしない。
自動書記、というのがあるけど、これは自動太極拳か。
「あー、すっきりした!なんなんだろ、これ」
さあね、なんだろうねえ。