今までの人生で、一番笑ったのはどんなことだったか。
涙を流しながら笑うのは、姉妹でふざけている時が多い。
いろんな場面で大笑いしていると思うけれど、
忘れられない大笑いがある。
妹が2歳か、それより小さかっただろうか。
妹はどこかを擦りむいたりすると、包帯を巻かなければ気が済まない。
包帯を巻けば治ると思っているのだ。
ある時、妹が転んだかなにかで、鼻の下を擦りむいたことがあった。
さすがにその場所に包帯は巻けないのだと母が説明しても
妹は泣き騒ぎ、仕方がないので鼻の下に包帯を巻いてやった。
ピアノがある部屋に姉と私がいたところに、母が妹を抱いて入って来た。
泣いたあとでまだ涙で頬が濡れていて、半ばしかめ面をした妹の
鼻の下には、半分の幅に切った包帯が、鉢巻のように、でも弱々しく巻かれていた。
それを見た姉と私は、笑いの発作に見舞われて、
言葉どおり、腹を抱えて、床を転げ回った。
笑いがおしよせて息もできないぐらいで、ヒイヒイと引きつりながら笑った。
転げ回った床の冷たい感触や、ピアノの足の匂いや、
足で踏む金属の冷んやりとした感じを今でも鮮明に覚えている。
妹は自分が笑われているとわかって、再び泣き出した。
どのぐらい笑っていただろう。
笑いが収まるとどっと疲れて、姉と私は床に転がったまま
天井を見ていた。
蛍光灯が じー という音をたてていた。
天井を眺めたまま、思い出したように「フ、…フフ」と、気味悪く笑っていた。
あれはたぶん夏だった。
母は若く、包帯を巻けと泣いた妹は、あの頃の母の年をとっくに超えた。
バカ笑いの、一番の思い出である。
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涙を流しながら笑うのは、姉妹でふざけている時が多い。
いろんな場面で大笑いしていると思うけれど、
忘れられない大笑いがある。
妹が2歳か、それより小さかっただろうか。
妹はどこかを擦りむいたりすると、包帯を巻かなければ気が済まない。
包帯を巻けば治ると思っているのだ。
ある時、妹が転んだかなにかで、鼻の下を擦りむいたことがあった。
さすがにその場所に包帯は巻けないのだと母が説明しても
妹は泣き騒ぎ、仕方がないので鼻の下に包帯を巻いてやった。
ピアノがある部屋に姉と私がいたところに、母が妹を抱いて入って来た。
泣いたあとでまだ涙で頬が濡れていて、半ばしかめ面をした妹の
鼻の下には、半分の幅に切った包帯が、鉢巻のように、でも弱々しく巻かれていた。
それを見た姉と私は、笑いの発作に見舞われて、
言葉どおり、腹を抱えて、床を転げ回った。
笑いがおしよせて息もできないぐらいで、ヒイヒイと引きつりながら笑った。
転げ回った床の冷たい感触や、ピアノの足の匂いや、
足で踏む金属の冷んやりとした感じを今でも鮮明に覚えている。
妹は自分が笑われているとわかって、再び泣き出した。
どのぐらい笑っていただろう。
笑いが収まるとどっと疲れて、姉と私は床に転がったまま
天井を見ていた。
蛍光灯が じー という音をたてていた。
天井を眺めたまま、思い出したように「フ、…フフ」と、気味悪く笑っていた。
あれはたぶん夏だった。
母は若く、包帯を巻けと泣いた妹は、あの頃の母の年をとっくに超えた。
バカ笑いの、一番の思い出である。
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