日本からハワイへのフライトは6時間半ほどで、往きの9時間半に比べたらずっと楽。
もう1本映画を観たかったのに、というまに着いてしまう。
飛行機を降りて荷物を受け取り、空港の外に出ると、湿り気を帯びた暖かい風が吹いていた。
迎えに来てくれた夫の車に乗り、トンネルを超えると、一面が緑に覆われた我が村に突入する。
日本とハワイでは光の量と質が違うから、色が違って見える、と聞いたことがあるが、それは本当だと思う。
空も山も建物も、道行く人でさえ、日本とは違って見える。
日本にいると、言葉は通じるし、便利だし、なんでもあるし、食べ物は美味しいし、広いし、物価は安いし、姉妹や友達にもいつでも会えて、医療も介護も充実していて、住んだら楽だろうなと思う。
けれど、英語しか使えず、不便で、美味しいものには限りがあり、狭苦しく、物価はバカ高く、姉妹や友人とも離れ、医療も介護も一部の裕福な人たちにしか恩恵がないハワイに降り立てば、やはり私はここが好きだと思う。不便なことや、ないもののほうが、あるものよりも遥かに多い、このハワイが。
なぜそう思うのかは、わからない。
夫と出会うまでは、私にとってハワイは好きでも嫌いでもない場所、取り立てて考えたこともない、つまりはどうでもいい所だったのに。
「日本に帰る」のが、「日本に行く」になり、「ハワイに帰る」になったのは移住して、何年目ぐらいだったろうか。
前の職場で、旦那さんの仕事でハワイに住んでいる日本人の同僚が、ハワイが嫌で嫌でたまらない、と言っていたことを思うと、私はなんとツイていることだろう。
ハワイに帰ってきた翌日は仕事だったのだが、私の英語脳のスイッチがうまく入らなくて愕然とした。
移住した直後は、常に英語脳スイッチがONになっていて、たまにショートしてしまい、簡単な英語文さえ意味がわからない、という状態になってしまう。英語脳のスイッチをうまくON・OFFできるようになると、OFFの時には耳に入って来る英語はただの音になる。
日本に滞在したのはほんの1週間。夫が一緒なら、夫とは英語を話すけれど、今回は一人で行ったので日本語のみ。
かろうじて、1日に1度夫に電話をした時だけが英語を使う機会だった。
日本で温泉に行った時、旅館のクロゼットから浴衣を出し、私が
「寒いから丹前も持って行こう」
と言うと、友人が驚いた。
「え!なんで丹前なんて単語が出てくるの?言われるまで名前が出てこなかったよ」
日本ではすっかり日本語スイッチ全開になっており、自分でも忘れていた単語が自然に出てきたのだと思う。
出てくる、出てくる、衣文かけも出前もズック靴も。(しかし古い言葉ばっかり・・)
そしてそのまんま、ハワイに戻ったら、なかなか英語脳に切り替わらないというわけなのだ。
所詮、私の英語は付け焼刃。高校時代の授業までの知識で(それもいい加減)、あとは人が話すのを真似てお茶を濁しているのだから、1週間でも使わないでいると忘れてしまうのかもしれない。
あれから1週間。
なんとか英語脳スイッチが元に戻りつつある。
日本で買ったものや、お土産にいただいたものを、少しずつ食べたり使ったりしながら、日本を懐かしく思い出している。