太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

低血圧

2019-02-27 08:02:41 | 日記
低血圧の人は朝起きるのが大変だというけれど、必ずしもそうではない。

私の血圧は昔から、上が80、下が50台で、低いほうだと思うが朝は弱くない。

アラームが数回鳴って、それを止めるとすぐにスクっとベッドから出ることができる。

しばらくゴロゴロしていたいのは山々だけど、そんなことしても起きるのがますます嫌になるだけで

どうせ起きなくてはならないのなら、潔く起きてしまえというヤケ気味の勢いだ。

ましてこの季節、起きると外はまだ満天の星。

勢いでもつけなけりゃ、起きられやしない。



最初の結婚時代、初めに住んだアパートは、真ん中に吹き抜けがあり、

コの字型の3階建てだった。

当時にしてはオシャレなデザインだったが、吹き抜け部分を囲んで各部屋のドアがあるので、

人の出入りがいやでも見えてしまうという、防犯上にはいいのだろうが

プライバシーはどうなのか、というアパートだった。

入居している人たちの年齢が近かったせいか、私以外は専業主婦だったからか

朝、ゴミ袋を持って出て、同じアパートの主婦と立ち話をして

気づいたらゴミ袋を持ったままお昼になっていたとか、

夏の夕方、私が仕事から帰ると吹き抜けの場所に集まってビールを飲んでいるとか、

わりとなごやかに付き合っていた。

その中の主婦の一人、Sさんが低血圧で、朝起きられないのだという。

小学生の息子もダンナも、朝ごはんを抜きで出かけることもあり、

「ほんとに申しわけないと思うんだけど、これって体質でしょ、どうしようもないじゃない?

これでも努力してるんだけどねー、だめなのよぅ」

Sさんは、顎のラインですぱっと切りそろえたツヤツヤの髪を指でかきあげながら笑うのだった。

Sさんはなにかにつけ、この「低血圧」を持ち出す。

「ほら、私低血圧だから、重労働が苦手なのよ」

「健康でいいわねー、私なんか顔色よくないでしょ」

私はめんどくさいので笑って聞いているだけだが、低血圧=病弱なのか?という疑問が渦巻く。

低血圧は貧血とは全然違うんじゃ・・という問いも残る。

そんな或る日、町内の健康診断があった。

無料なので、ご近所お誘いあわせの上、仕事で留守の私以外は出かけた。

その日、仕事から帰った私にTさんが小走りでやってきて、言った。


「ねえねえ、今日健康診断行ったじゃない?そしたらね、Sさん、まさかの高血圧だったのよー」


それきり、Sさんは低血圧を持ち出すことはなくなった。

そして誰もそのことには触れずに、しばらく気まずい空気の中で過ごしたのだった。

















にほんブログ村 海外生活ブログ 海外移住へにほんブログ村

アナログ

2019-02-25 15:09:28 | 日記
楡周平氏の小説の主人公は、日本版ジェイソン・ボーンのような男で

しかし彼は犯罪と知っていて立ち回る、悪のヒーローだ。

彼は、犯罪によって作った資産をオーストリアの銀行に預けている。

その銀行は、すべてが手作業と紙。

つまり、インターネットバンクもなければ、電子データも何もない。

すべての取引は紙とペンで、すべての記録もまた紙。

まるで100年前さながらのこのシステムでは

ハッカーが入りこんで操作することも、記録をネットで調べることもできないから、ものすごく安全というわけだ。

小説の中だけなのか事実なのかはわからないが、

本当だとすれば、マフィアたちがスイスの銀行に預けるというのはもう古いということか。



私は、まったくのアナログ派だ。

スマートフォンやアイパッドなどでスケジュール管理をする人が多い(殆どかも?)中で

私は手帳にこだわる。

住所録も手書きだ。

電話番号も、電話の中にもあるが、手帳の最後のほうにまとめて残しておく。

機械は壊れたり、なくしたりしたらそれまでだ。

それに私は機械を信用していない。

といって、自分自身は機械よりも信用に足るのかというと、けしてそうではないのだが

機械に任せて何か起きたとき、私には手も足も出ないけれど

私が管理できる範囲内で起きたことには、なんとかしようがあるのではないかと思うのだ。


日本の銀行には、通帳という便利なものがある。

通帳を見れば、お金の動きが一目瞭然。

ハワイの銀行には通帳など存在しない。

じゃあ銀行に任せておけば安心かというと、どうだろう。

夫がキャッシュカード作成を頼んだが、忘れられ、

1ヶ月以上かかってできたキャッシュカードの、引き落とし先口座が間違っていた。

この口座から、と、ちゃんとデスクで担当と面と向かって書類を書いたのに、できてきたのは別の口座だったのだ。

面倒なのでそのままにしてある。

ハワイに住み始めて、のっけから銀行のお粗末さに呆れかえった経験から、私は銀行も信用していない。



私の絵が売れた代金が、ギャラリーから小切手で届く。

それを銀行の窓口に出して、口座に入れたり現金にしたりするのだが、

銀行があいている時間に行くのが、なかなか難しい。

それで夫に頼んで、ATMから入金してもらっていた。

ATMに小切手を差し込むと、機械がそれを読み取って画面に表示し、口座に入れる、を押すだけ。

先日、新しく取引を始めたギャラリーから、最初の小切手が届いたら

私の苗字に、余計なアルファベットが入っていた。

相手先に印字し直してもらわなくては、という私に、夫はその必要はない、と言う。

スペルが違ってるぐらい大丈夫だというのだ。

「だって前の職場でもらってた小切手、ずっとぼくの名前間違ってたし」

日本じゃありえない。

鈴木敏夫が、木敏夫だったら認められないに決まってる。


試しにそれをATMに入れてみた。

するりと小切手が飲み込まれる瞬間、背中がゾッとする。

このゾッとするのが嫌で、私はキャッシュカードを持っていない。

吸い込まれたカードが出てこなかったら、と思うと気が気ではないのだ。

もちろん、これが日本ならゾッとはしない。

機械が小切手を読み込むのに時間がかかり、やっと画面に小切手が映し出され

「金額を入力してください」という表示が出た。

いつもなら、小切手に書かれた金額が表示され、確認するように言ってくる。

「割り増しして入力したらどうなるのかねえ」

正直に金額を入れたけれど、釈然としない思いが残った。

ちゃんと口座に入ったかどうかも不安だ。



便利さに負けて、ATMを使うのはもうやめようと思う。

小切手は、窓口で現金に換えよう。

口座に入れたければ、あらたに現金を窓口で入れればいい。

今日、溜めておいた2枚の小切手を現金に換えてきた。

銀行を信用していなかった、夫の祖父は、地下室の瓶の中に大量の現金を貯めていたそうだ。

祖父が亡くなったあと、家を片付けていた子供達(夫の父とその姉)が地下室の瓶を見つけて

おじいちゃんらしいや、とみんなでおおいに笑ったという。

しかし私は夫の祖父を笑えないのである。

















にほんブログ村 海外生活ブログ 海外移住へにほんブログ村

ヤギではなく犬

2019-02-21 07:54:14 | 日記
ハワイはまだ冷えている。

ハワイ島のマウナケアは、すっぽりと雪に覆われてしまった。

満月の夜と翌朝は、10度近くまで下がったんじゃないかと思う。

今日、インディアナ州に住む、夫の叔母がハワイに来る。

インディアナ州は、夏は日本並の蒸し暑さ、冬は大雪というところ。

毎日毎日雪ばかりの生活から、暖かさを求めてやってくるというわけだ。

インディアナに比べたら格段に暖かいはずだけど、暖房器具がないぶん、うちは

叔母の家よりも寒いと思う。




午後5時ごろの職場


このぐらいの時間の景色が、好きだ。

木々の間を光が通って、きらきらゆらゆらと光っている。

緑といっても、ほんとうにたくさんの緑があるんだなあ。

こんなきれいなところで働けていいですね、とお客様に言われる。

だって、ここにはこれしかないもの。

家に帰っても、仕事に来ても、こんな景色しかない。






職場から100mぐらい離れたところに、1軒の家がある。

ここの土地のオーナーが人に貸していて、わりとよく借主が入れ替わる。

数ヶ月前、新しい人が入った。

家の裏手に、白いヤギがいる。

ここじゃ、ヤギを飼うのはそれほど珍しいことでもない。

雑草を食べてくれるので、ヤギの貸し借りもよくある。

白ヤギは日がな裏庭をうろうろとしている。

「ヤギの家」

同僚たちの間でも、その家はそう呼ばれていた。

敷地の草を刈って出た大量の草木を、ヤギに届けようかと話していた矢先だった。

昨日、そのヤギが鳴いているのが見えた。

これだけ離れていると、音や声は聞こえない。

鳴いている様子が見えるだけなのだが、口をパクパクと上下にあけたりしめたりしている。

「え・・・・犬?」

犬だと思って見れば、犬かもしれない。

尻尾が短いのでヤギに見えたけれど、あれはやっぱり犬だわ。

刈った草木を届ける前に気づいてなにより。


















にほんブログ村 海外生活ブログ 海外移住へにほんブログ村

ライムジャム

2019-02-20 07:47:53 | 食べ物とか
昨年は庭のライムが大豊作で、取っても取っても

次々に実をつけた。

夫が仕事に持ってゆく水筒に、毎朝ライムを搾ったり

レモンの代わりにライムを使ったり、

人にあげたり、それでもまだまだライムはある。

そこでシュートメが、ライムジャムを作った。

使ったライムは60個。



これが、美味しいのなんの。

ほんのりした苦味が、すごくいい。

ママレードの苦さが好きな私は、これをヨーグルトに入れて毎日食べている。







にほんブログ村 海外生活ブログ 海外移住へにほんブログ村

カレーライスとらっきょう

2019-02-19 07:59:26 | 日記
普段は、思い出として記憶の引き出しにおさまっていることが

なにかのきっかけで、強烈な感情とともにあふれ出してしまうことがある。

先月、日本に行った時、夕暮れに住宅地を歩いていた。

そこは古い町で、しゃれた家と昔ながらの家が混在している。


かぽん


どこかの家のお風呂場から、入浴剤だかシャンプーの匂いに混じって、桶を床に置く音が聞こえた。

その瞬間、記憶が弾けて、木のお風呂とカレーライスとらっきょうが脳内に散らばった。





幼馴染の家は、家の前の砂利道をはさんではす向かいにあった。

長男が姉と同じ年、妹が私より1歳上で、私達は親戚のようにして育った。

小学校に入るまでは、それこそ毎日、どちらかの家で遊んでいた。

幼馴染の家には、まだ土間があり、背中の曲がったおばあちゃんがお釜でご飯を炊いたり、

大きな瓶で漬物を漬けていた。

遊びほうけてご飯どきになると、お風呂をよばれた。

お風呂場の引き戸をあけると、風呂場の床はずっと下にあって、

家の床の高さまでの、長い脚の木のスノコが置いてあった。

風呂桶は木でできており、これまた木の桶でお湯をすくって体にかけると、

長い脚のスノコの下に、お湯がじゃあじゃあと落ちる。

私達はそれがおもしろくて、何度もお湯をかぶる。

「たいがいにしな。お湯がなくなっちゃうよ」

オバチャンが叫ぶ。

お風呂から出ると、ちゃぶ台にカレーライスがのっている。

私の家ではテーブルと椅子で食事をしていたから、畳の部屋に座って食べるのは珍しくて好きだった。

ホームドラマに出てくるような、丸いちゃぶ台を家族が囲んでカレーライスを食べる。

子供達が、らっきょうを取り合っている。

オバチャンが私の皿にらっきょうを取り分けてくれた。

家でらっきょうを食べたことがなかった私は、初めて見るソレにおののいたが

残すのは悪いので口に放り込み、飴玉のようにしゃぶった。

甘酸っぱい味と、えぐい味が同時に染み出てきて、美味しいとは思えなかったけれど

カレーの味に混ぜて噛み砕き、飲み込んだ。



ハワイに戻ってきて、日本のカレールウでカレーライスを作った。

福神漬けとらっきょうも買ってきた。

らっきょうは夫の好物だ。

マウイ島で採れる、マウイオニオンという甘い玉ねぎがある。

それをピクルスにしたものが、瓶詰めで売っているのだが、それがまさにらっきょうの味。

らっきょうが苦手だった私が、今はらっきょうを買い、マウイオニオンのピクルスを好んで食べている。





巻き戻して戻りたい過去というわけではない。

ただ、あまりに鮮明に思い出すので困惑する。

背中の曲がったおばあちゃんも、オバチャンもいなくなってしまった。

土間や木のお風呂があった家は、とっくに建て替えられた。

四本脚のついたテレビでは、クソ真面目な顔をしたアナウンサーがニュースを読んでいた。

オバチャンが切ってくれたスイカの、1番厚い一切れを奪い合い、

縁側からスイカの種を飛ばしっこした。

「いつまでいるだね。いいかげんに帰ってきな」

そのうち母が迎えにくる。

お勝手口から外に出ると、ドブ川の上にたくさんの蛍が飛んでいた。

50年も昔の話である。















にほんブログ村 海外生活ブログ 海外移住へにほんブログ村