◎『外人の観た日本人』(1946)の「はしがき」
洋洋社が刊行した「新日本建設叢書」の第一輯、武野藤介著『外人の観た日本人』(一九四六)の「はしがき」を紹介してみよう。
これを読んで、戦前の日本人は、外人の「お世辞」に、「ながい間馴らされて」という見方があったことを知った。
は し が き
★外人の観た日本。「お世辞」ならもうたくさんである。また、敗戦国日本に今更らお世辞でもあるまいではないか。このお世辞に日本人はながい間馴らされても来てゐた。今、我々の非常に知りたいのは外人の観た日本の「悪口」である。悪口ではないまでも、日本及び日本人に対する真実の批判であり、「ほんとう」のことである。新日本の建設は我々がこれを知ることから出発しなければならない。
★日本には現在、社会全般、あらゆる部面に根本的に改むべきことが余りに多いからである。敗戦仮借なくそれを我々に訓えた。我々はこれを知るためにまことに高価な取返しのつかない犠牲を支払つたのである。
★由来、我々の政府は、歴代、外人の観た日本の「悪口」を余りにも我々に知らせな過ぎた。知らせることを欲せないかに思はれた。その理由とするところは、恐らく、日本を「侮辱」してゐるが故に、彼我の「親善」を阻害するものとしたからであらう。日本の真実を語つたこの種の活字を伏字にした。日本人を盲目にしたやうなものである。輸入映画なども同様で「国辱」といふ合言葉によつて、輸入禁止、上映禁止。
★その結果はどうであつたか? 実力が伴なはなくして自惚ればかり人一倍に強い日本人にしてしまつたのである。存外、敗戦の由々敷き〈ユユシキ〉素因はこんなとこにあつたのではないか。而も、親善を深うするどころか、日本は、ただ一国で、遂に世界中を「敵」にしたのである。
★そのくせ、日本には昔から「良薬は口に苦し」といふ俚諺がある。外人の観た日本。いろんな書物の中から、断片的に、その「薬」を拾ひあげたのがこの小冊子である。観光的に一瞥した思ひつきのやうな批判は敢て執らなかつた。いづれも今日では絶版ながら、矢吹慶輝氏の監修になる『外人の観たる日本国民性』からも得るところ多く、また、拙著『謎の日本』からも執つた。「日本学」の研究。否、この小冊子の目的はかかる学研的のそれではないのである、また、一頁から読む必要もない。どこの頁をひらいて呉れてもよろしい。要は、一項目づつ、考へながら読んで貰ひたいことである。新しき日本及び日本人を建設するために。
★民主主義とは何ぞや? これも今日、日本人にとつては最も重大な主題である。この小冊子はその「具体的な事例」をもだいたい拾ひつくしてをりはしないかと思ふ。
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