◎日記をしたためる際の注意とその範例
三月二〇日からの続きである。中等教育会編纂『夏季鍛錬日誌』(文信社、一九四二)は、「戦時学徒自戒五条」、「休暇の心得」のすぐあとに、「日記の認め方に就ての注意」、および「日記の範例」というものを載せている。本日は、この二つを紹介してみよう。
両方とも、改行は原文のまま。なお、「日記の範例」のほうは、手書き文字である。
日記の認め方
に就ての注意
日記は、毎日の行事を唯
機械的に附けて置く丈では
意味をなさぬ。それよりも
毎日の出来事の中、一つ一
つの比較的印象の深かつた
事柄を択んで、これを短文
に作るがよい。かくすれば、
その人の生活のありのまゝ
が現れ、生きた人生が描き
出され、成人した後になつ
ても、楽しい想出ともなり、
反省の資料ともなり、ひい
ては文も熟達してきます。
諸子は今この日記を認む
に方り、下記の範例に倣つ
つて、もつと文も上手に、文
字も奇麗にお書きなさい。
【日記の範例】
今日は兄が士官学校に帰る日だ。何
だか名残惜しい。でも仕方がない。次の帰
郷を楽しみに待つてゐよう。出発は午前
十時。母が駅まで見送りに行くので、僕は
留守番をする。汽笛が鳴る、汽車が出る。
家の裏に出てレールの処まで行つて待つてゐる。
汽車はだんだん近づく。兄は昇降口に立
つてゐる。僕が手を挙げると、兄も挙手
の答礼。弟は兄ちやんが見えた見えたと
言つてよろこぶ。
午後五時頃から驟雨が降り出して、
急に涼しくなつた。
兄の無事着京を祈る。