◎木材は大節・死節・破れ・疵・腐等これなき品あい撰み……
神作浜吉『日本工業用文』(博文館、一八九四)から、慶應義塾が講堂を新築した際の「仕様注文簿」を紹介している。本日は、その三回目。昨日は、「鳶人足並に土方の部」、および「煉化職之部」を紹介した。本日は、それに続く「石工の部」、「大工の部」、「瓦方の部」を紹介する。
石工の部
一外廻り根石入口石階段四ケ所裏口并に左右入口の間三ケ所の石処用石材は当方に於て下拵〈したごしらえ〉の上相渡し可申候得共〈そうらえども〉其他左右并に裏入口庇請【ヒサシウ】け石正面入口上陸家根【やね】手摺【てすり】台石仝〈ドウ〉笠石正面上飾甍【カザリイラカ】柱台并代笠石仝上飾石仝甍笠石仝中央飾石及ひ火焚所前灰止石は請負人に於て豆州沢田上等青石(石質中に金色粉なき分)持出し下拵の上据【スエ】付方可致〈イタスベク〉其他二階梁請ケ〈はりうけ〉枕石は梁の両端煉化へ積込元に一個宛相州堅石請負人より持出し下拵致し据付【スエツ】け可致候事
都て〈すべて〉石打据付方は石重ね肌并煉化へ積込肌は奇麗に掃除水湿【スイシツ】致し候上充分「モルタル」飼堅【カヒカタ】め竪目地【タテメチ】へは酌【クミ】とろ充分に酌込み見あらはし面【ツラ】奇麗に水掃除可致事
【このあとの八項目、略】
大工の部
一使用木材は杉松檜【ヒノキ】槻【けやき】共深川木場堀にて充分木渋抜【シブヌ】け致したる物の内大節死節破【わ】れ疵【キズ】腐【クサリ】等都て有害の疵無之〈これなき〉品相撰み仕上注文の寸法に相成様〈あいなるよう〉挽立【ヒキタ】て十分に木枯【キガラ】し致したる上使用可致事
【このあとの十八項目、略】
瓦方の部
一使用瓦は古切込桟瓦相渡し候間〈そうろうあいだ〉請負人に於て丁寧に掃除致し候上〈そうろううえ〉使用可致候事
【このあとの二項目、略、以下、次回】
「豆州沢田上等青石」(ずしゅうさわだじょうとうあおいし)というのは、伊豆半島で採取され、一般に、伊豆石(いずいし)と呼ばれている石材のひとつと思われる。「相州堅石」(そうしゅうかたいし)というのは、かつて、真鶴半島で採取されていた石材。