◎使用カナ物は舶来上等ナマ鉄あい撰み……
神作浜吉『日本工業用文』(博文館、一八九四)から、慶應義塾が講堂を新築した際の「仕様注文簿」を紹介している。本日は、その四回目。すでに、「瓦方の部」のところまで紹介している。本日は、それに続く「鉄物方の部」、「建具方並錠前蝶類」を紹介する。
鉄物方の部
一都て使用鉄物【カナモノ】は舶来上等ナマ鉄相撰み相用可申事〈あいもちいもうすべきこと〉
一小屋組立用鉄物大小「ボート」大小平物大小三ツ股平物其他惣目方百五拾貫目の割にして夫々〈それぞれ〉図面指揮の寸法格好に念入【ネンイレ】出来コールタ塗の上大工方へ相渡し可申候且「ボート」座頭【ザガシラ】は格別念入出来致し万一取付け等の欠け損し等出来候節は他用鉄物同様何ケ度も手直し又は引換方可致事
【このあとの五項目、略】
建具方並錠前蝶番【テフツガヒ】類
一使用木材は充分木枯らし致したる品にて抜節【ヌキフシ】死節【シニフシ】破目【カレメ】等有害の疵無之物撰み使用可致事
一左記仕様中に有之候木材寸法は別段挽立寸法と記載有之候分の外は都て仕上げ寸法と相心得可申事
一使用錠前【ジヤウマヘ】用の螺釘【ネジクギ】並に蝶番【テフツガヒ】類真鍮【シンチウ】物に相用ひ候螺鋲【ネジビヨウ】は真鍮鋲と相心得可申事且つ真鍮物は都て上鑢【ヤスリ】仕上け上にする塗仕上け物と心得候事
【このあとの三項目、略、以下、次回】
「鉄物方の部」の第一項にある「ナマ鉄」は、「なまがね」と読むのか。だとすれば、「鍛えていない鉄」の意。同第二項にある「ボート」は、文脈から判断すると、「ボルトbolt」のことであろう。