◎宗教法人令が成立したときの喜びはなみ大抵ではなかった
吉田孝一・井上恵行・荒川正三郎共著『宗教法人令の解説と運営』(新教出版社、一九四七)から、その第一編「宗教法人概説」の第一章「宗教団体法廃止と宗教法人令制定の経過」を紹介している。本日は、その三回目(最後)。なお、本書第一編の執筆は、「文部書記官 吉田孝一」である。
宗教団体法廃止と宗教法人令制定の経過は概略以上の如くであるが、それは決して坦々たる道を行つたものではなかつた。それだけに宗教法人令が成立したときの関係者一同の喜びはなみ大抵ではなかつた。これ偏に〈ヒトエニ〉連合国民間情報教育部のバーンス宗教部長をはじめ関係諸氏の深い理解と非常な熱意、連合国と日本側との間に立つて終始極めて懇切に両者の斡旋につとめられた岸本英夫氏、それから、法制局、司法省、大蔵省、内務省、終戦連絡事務局その他関係官庁当路者〈トウロシャ〉殊に法制局第二部長佐藤達夫氏、同参事官宮内乾氏、同参事官小池輝一氏、司法事務官荒川正三郎氏、大蔵事務官忠佐市〈チュウ・サイチ〉氏、同理事官明里長太郎〈アカリ・チョウタロウ〉氏、終戦連絡事務局第一部第四課長森田孝氏、同連絡官齋藤常勝氏、同宇山厚氏等の心からの協力、更に全国の宗教家並びに宗教関係者各位の支援の賜〈タマモノ〉であつて、まことに感謝感激にたへぬところである。
今回、廃止せられた法令は左の通りである。
(イ)、宗教団体法(昭和十四年法律第七十七号)
(ロ)、宗教団体法施行令(昭和十四年勅令第八百五十六号)
(ハ)、宗教団体法施行規則(昭和十五年文部省令第一号)
(ニ)、教派、宗派及教団ノ報告ニ関スル件(昭和十五年文部省令第十号)
(ホ)、宗教団体法、宗教団体法施行令及同法施行規則施行ニ関シ取扱方ノ件(昭和十五年文部省訓令第四号)
(ヘ)、宗教団体登記令(昭和十五年勅令第九十八号)
(ト)、宗教団体登記取扱手続(昭和十五年司法省令第八号)
(チ)、公衆礼拝用建物及敷地登記令(昭和十五年勅令第九十九号)
(リ)、宗教団体法第二十二条第二項ノ規定ニ依ル地租免除ニ関スル件(昭和十五年勅令第四百六十号)
(ヌ)、宗教団体法第二十二条第二項ノ規定ニ依ル地租免除ニ関スル訓令ノ件(昭和十五年大蔵省令第十四号)
(ル)、都道府県宗教団体法施行細則
次に新に〈アラタニ〉公布せられたものは次の如くである。
(イ)、宗教法人令(昭和二十年勅令第七百十九号)
(ロ)、宗教法人令施行規則(昭和二十年司法文部省令第一号)
(ハ)、宗教法人登記及寺院教会財産登記取扱手続(昭和二十年司法省令第七十六号)
(ニ)、宗教法人令第十六条第一項及第二項ノ規定ニ依ル所得税、法人税及地租ノ免除等ニ関スル件(昭和二十年大蔵省令第百九号)
かくて、宗教団体は法人とならない限り、これを監督すべき法令がすべて廃止された結果、全く自由に放任せられ、従来主務官庁の認可を必要とした教派、宗派及び教団並びに寺院及び教会の設立、合併、解散、規則の変更、管長、教団統理者、代務者の就任等いづれも認可はいふに及ばず届出すら必要でなく、その他何等の監督取締も受けないことゝなり、信仰の自由はもとより、布教伝道の自由も、はたまた結社の自由も確保されることゝなつたのである。
法人たる宗教団体は宗教法人令及び関係法規に依つて規律されるが、これまた設立は極めて簡単容易であり、監督規定の如きも始んどなく、しかも一定の保護が与へられてゐるのである。かやうにして、わが国宗教界の民主主義的体制の基礎が確立し、その教化機能のいつそう活潑な展開が期待されることゝなつた。
明日は、いったん話題を変える。