◎『宗教法人令の解説と運営』(1947年1月)を読む
必要があって、宗教法人令(一九四五年一二月公布施行)について調べている。たまたま、吉田孝一・井上恵行・荒川正三郎共著の『宗教法人令の解説と運営』(新教出版社、一九四七年一月)という本を手にしたので、このあと、しばらく、この本を紹介してみる。本日は、その「序」を紹介してみたい。
序
陣痛四十年、やうやく呱々の声をあげた宗教団体法も、あはれ六歳を一期〈イチゴ〉として世を去つた。あまりにも儚い〈ハカナイ〉生涯であつた。その出産や養育にたづさはつた人にとつては、まことに感慨無量といはねばならぬ。
かつて或人が「宗教団体法は自由主義の所産だ」と評したが、さうまでいはれたこの法律が、こんどは「信教自由ノ保全ヲ図ル為」に廃止されるやうになつたのである。世の変貌推移の甚しさが、まざまざと感ぜられる。
宗教団体法は、その短い一生にもかゝはらず、宗教制度の上に遺した足跡は決して小さいものではなかつた。紛然雑然たる法規を整備し、宗教団体の法的地位を確立し、健全な宗教の保護助成に寄与したその功績は、充分認めねばならないが、惜しいことには、その運営の点において、宗教の自由を妨げるやうな傾向がないではなかつた。そして、このことが、この児の前途に運命的な一抹の暗い翳〈カゲ〉を投ずることゝなり、しかも、その運命の翳は、ものみな自由の一路を辿らうとする戦後の転換期に入るや、たちまち愛児の全身を包み、つひにこれを永遠の彼方に奪ひ去つたのである。
宗教団体法は夭折した。しかし、私達は、同じ日に宗教法人令の誕生を迎へることができたのである。もう私達は、いつまでも「死児を抱いて」その顔に感傷の瞳を凝らすことを、すつぱりと止め、愚痴も未練も執着も、すつかりかなぐり棄てゝ、新生のこの自由児が立派に成人するやう、みんなでうまく育てゝ行きたいと念願するばかりである。
【一行アキ】
宗教法人令はわづかに十八ケ条、一見すこぶる簡単なやうだが、なかなかさうではない。なにぶん司法・行政に渉り、公法・私法に及び、教界・俗界に跨り〈マタガリ〉、神仏基その他の宗教にも触れてゐるのだから、法律・宗教ともに暗い人は勿論のこと、法律に暗いが宗教に明るい人でも首をかしげ、宗教に暗いが法律に明るい人でも腕を組む――といふわけで、相当複雑であり難解である。
で、私達は、かうした人々にも、法の精神やその特質がよく納得してもらへるやうにと、なるべく平易に、できるだけ詳細に筆を運ぶと共に、その平易詳細な叙述のうちにも、おのづから宗教法令独自の持味を出してみよう、そしで法律臭くない法律書をものしてみたいと大いにつとめたのであるが、根が菲才禿筆の上に、三人とも役所づとめの片手間仕事、果してうまく予定通りにできたかどうか、甚だあやしいものである。しかし、こんな小著でも、新しい宗教行政へのさゝやかな道標となり、日本再建のための一本の「黄金の釘」ともならば幸である。
【一行アキ】
本書は、著者三人がそれぞれ別な視点から宗教法人令の解説を試みたものである。従つて、一方では極めて詳しく説き、他方ではごくあつさりと片づけてゐることもある。例へば登記に関しては、第三編の解説は相当詳しくなつてゐるが、他の二編には簡単な説明しかない。そこで、新制度の全貌を隈なく見届けようとされる方ば、面倒ながら三編一読の労をぜひとつていたゞきたい。また、説明が重複してゐるところもかなりあるやうだが、これもやむを得ないことゝお恕しを願ひたい。
【一行アキ】
実は、最初の計画では、宗教家各位の便宜を図り、附録として、宗教法人の規則の記載例・官庁へ出す届書の様式・登記に関する各種の書式を巻末に添へる考であつたが、都合で別冊とし「宗教法人関係書類様式集」と題して、同時に出版することにした。その登記に関する各種の書式については、司法省民事局の昼間氏からなみなみならぬ御援助を賜はつたことを、大変ありがたく思つてゐる。また、出版については、用紙その他万端不如意な中を、新教出版社の一方からぬ御高配を忝う〈カタジケノウ〉した。こゝに謹んで厚く御礼を申上げる。
昭和二十一年三月 吉田孝一/井上恵行/荒川正三郎
「宗教法人令はわづかに十八ケ条」とあるが、この十八ケ条の正確な条文を把握することは、意外に難しい。インターネット上で、ふたつ見つけたが、ひとつは「抄」であり、もうひとつは入力ミスが散見される。この本の紹介を、ある程度、終えたところで、できるだけ正確な条文を提供する予定である。