◎「蝉の種別的方言集」について(高島春雄)
昨日、紹介した『土の香』第八巻第一号(一九三二年一一月)に、もうひとつ、蝉に関わる小文が載っている。本日は、これを紹介してみよう。
「蝉の種別的方言集」について 東京 高島春雄
肥後の能田太郎氏の拙文に対する御批正は拙文の長所とも申すべき処を少しも察知されず見当違ひの非難故〈ユエ〉筆者として小生大いに不本意に思つて居ります別に誌上では論戦を開きませぬが能田氏には一応愚意を申し述べることに致しました、動物方言を取扱ふ士は或る程度まで動物学の智識を具へる様に致し度く、さもないと如何程〈イカホド〉方言の採集なり取扱ひ方なり上手でも正しい結果を得られないことになると愚考致します「方言」所載の拙文は能田氏に味噌くたにやられる程無価値なものとは考へて居りませぬ、唯色々と御高教下さつたことに対しては同氏に深甚の敬意を表して居ります。
著名な動物学者・高島春雄(一九〇七~一九六二)が、まだ若かったころの文章である。雑誌『方言』に、「蝉の種別的方言集」という論文を発表したところ、雑誌『土の香』で、熊本の方言研究家・能田太郎(一九〇三~一九三六)に酷評されるということがあったようだ。高島の論文、野田の批評、ともに未確認。
なお、この高島春雄の小文は、構成といい、言葉の選び方といい、よく練られた名文であって、研究などに対し他人から酷評されて反論したいような場合には、ぜひ参考にしたいと思ったものである。