礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

臣子としてこれ程の感激を覚えたことはない(東久邇首相宮)

2019-08-25 00:08:54 | コラムと名言

◎臣子としてこれ程の感激を覚えたことはない(東久邇首相宮)

 共同通信社編『近衛日記』の紹介を中断し、朝日新聞社編『終戦記録』(朝日新聞社、一九四五年一一月)を紹介している。本日は、同書の「帝国議会における東久邇首相宮殿下の御演説」の部を紹介する。一九四五年(昭和二〇)九月五日に、衆議院および貴族院でおこなわれた演説である。非常に長いので、何回かに分けて紹介する。
 なお、この演説は、インターネット上のデータベース「世界と日本」(代表:田中明彦)にも収録されている。ただし、表現、表記は、かなり異なっている。ここでは、『終戦記録』にある形で紹介する。

 稔彦〈ナルヒコ〉曩に〈サキニ〉組閣の大命を拝し、国家非常の秋〈トキ〉に際し重責を負ふことになつたが、真に〈マコトニ〉恐懼〈キョウク〉感激に堪へない。
 ここに第八十八回帝国議会に臨み、諸君に相見え〈アイマミエ〉、今次終戦に至る経緯の概要を申し述べ、現下困難なる時局に処する政府の所信を披瀝することは、私の最も厳粛なる責務であると考へる。畏くも〈カシコクモ〉 天皇陛下に於かせられては開院式に親臨あらせられ特に優渥〈ユウアク〉なる勅語を賜はつたことは、洵に〈マコトニ〉恐懼感激に堪へぬ。私は諸君と共に有難き御聖旨を奉体し、帝国の直面する現下の難局を克服し、総力を将来の建設に傾け以て聖慮を安んじ奉りたいと思ふ。
 諸君、さきに畏くも大詔を拝し、帝国は米英ソ支四国の共同宣言を受諾し、大東亜戦争はこゝに非常の措置を以て、其の局を結ぶこととなつた。征戦四年、顧みて万感交々〈コモゴモ〉至るを禁じ得ない、しかしながら、既に大詔は下つたのである。われわれ臣子としては、飽くまでも承詔必謹〈ショウショウヒッキン〉、大詔の御精神、御諭〈オサトシ〉を体し、大御心〈オオミゴコロ〉に副ひ〈ソイ〉奉り聊か〈イササカ〉なりともこれより外れることなく、挙国一家、整斉〈セイセイ〉たる秩序の下に、新たなる事態に処して、大道〈ダイドウ〉を誤ることなき努力に生きなければならぬと信じる。
 この度〈タビ〉の終戦は、一に〈イツニ〉有難き御仁慈〈ゴジンジ〉の大御心に出でたるものであつて、至尊御親ら〈オンミズカラ〉祖宗の神霊の前に謝し給い、万民を困苦より救ひ万世の為に太平を開かせ給うたのである。臣子として宏大無辺の大御心の有難さにこれ程の感激を覚えたことはないのであつて、我々は唯々〈タダタダ〉感涙に咽ぶ〈ムセブ〉と共に、かくも深く宸襟〈シンキン〉を悩まし奉つたことに対し、深く御詫び申上ぐるのみである。恭しく〈ウヤウヤシク〉惟みる〈オモイミル〉に、世界の平和と東亜の安定を念ひ〈オモイ〉万邦共栄を冀ふ〈コイネガウ〉は肇国〈チョウコク〉以来帝国が以て不変の国是とするところ、もとより常に大御心の存する所である。世界の国家民族が相互に尊敬と理解を念として相和し〈アイワシ〉相携へてその文化を交流し、経済の交通を敦く〈アツク〉し、万邦共栄、相互に〈アイタガイニ〉相親しみ人類の康福を増進し益々文化を高め、以て世界の平和と進運に貢献することこそ歴代の天皇が深く念〈オモイ〉とせられた所である。洵に畏き極みであるが 天皇陛下におかせられては大東亜戦争勃発前、わが国が和戦を決すべき重大なる御前会議が開かれた際、世界の大国たるわが国と米英とが戦端を開くが如きこととならば、世界人類の蒙る〈コウムル〉べき破壊と混乱は測るべからざるものがあり、世界人類の不幸是に過ぐることなきことを痛く御軫念〈ゴシンネン〉あらせられ、御親ら明治天皇の
  よもの海みなはらからと思ふ世になと波風のたちさわくらむ
 との御製を高らかに御詠み遊ばされ、如何にしてもわが国と米英両国との間に蟠まる〈ワダカワル〉誤解を一掃し、戦争の危機を克服して世界人類の平和を維持せられることを冀はれ、政府に対し百方手段を尽して交渉を円満に纏めるやうにとのご鞭撻を賜はり参列の諸員一同宏大無辺の大御心に粛然として襟を正したと云ふことを漏れ承つてをる。この大御心は開戦と雖も終始変らせらるゝことなく、世界平和の確立に対し常に海の如く広く深き聖慮を傾けさせられたのである。この度新たなる事態の出現により不幸わが国は非常の措置を以て大東亜戦争の局を結ぶこととなつたのであるが、これまた全く世界の平和の上に深く大御心を留めさせ給ふ御仁慈の思召〈オボシメシ〉に出でたるものに外ならぬ。
 至尊の聖明を以て、なほ今日の非局を招来しかくも深く、宸襟を悩まし奉つたことは、臣子として洵に申訳のなき極みであると共に、民草〈タミクサ〉の上をこれ程までに御軫念あらせらるゝ有難き御仁慈の大御心に対し、われわれ国民は御仁慈の程を深く胆に銘じて自粛自省しなければならないのである。【以下、次回】

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