礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

戦災者は一千万に垂んとするの惨状を呈し……(東久邇首相宮)

2019-08-29 00:04:10 | コラムと名言

◎戦災者は一千万に垂んとするの惨状を呈し……(東久邇首相宮)

 朝日新聞社編『終戦記録』(朝日新聞社、一九四五年一一月)から、「帝国議会における東久邇首相宮殿下の御演説」の部を紹介している。本日は、その五回目。

 しかしながら長期に亘る数々の決戦において、その都度連合国軍に至大なる損害を与へたりとはいへ、この間皇軍の蒙つた創痍もまた決して尠き数字ではく、海軍力および航空勢力の損耗甚大なるものあり、共に戦争遂行上重大なる影響を与へ、しかも以上の如き国内生産の現状においては、これが補充は意の如くならず、陸上兵力においては大東亜各地に渉り作戦を続け来つた〈キタッタ〉のであるが、その装備は漸く十全を期し難く、終戦時における皇軍の物的戦力は逐次低下するの已むなき状況にあつたのである。これに対し尨大なる資源と、工業力とを有する連合国側の軍需補給力はいよいよ増大し、殊に欧州におけるドイツの屈伏後は戦勝の余勢を駆つて全戦力を帝国の周辺に集中し来り、物的方面における彼我戦力の相対的比率は、急速に均衡を失するに至つた。
 国力の現状は以上の如く、陸海の戦備もまた、かくの如き低下を見るに至りては、徹底的勝利の確信も理論上においては、遺憾ながらその根拠を減少し、戦争の継続は正に容易ならざる段階に到達したのである。一面連合国航空機による我が本土の空襲はいよいよ甚だしく、大都市は申すまでもなく、中小の諸都市は次々に壊滅し、戦災により家屋の焼失せるものは二百二十万に達し、負傷者数十万を以て数へ、戦災者は一千万に垂ん〈ナンナン〉とするの惨状を呈し、しかも八月に入り連合国軍は新に〈アラタニ〉原子爆弾を使用するに至り、その攻撃を受けたる広島、長崎両市の惨状は、眼も当てられぬものがあり、その災禍の及ぶところ延いてはわが民族の滅亡を来し、世界の人類の文明も、ために破壊に陥るを憂へしむるに至つた。加ふるにソ連は突如としてわが国に宣戦し、国際情勢また最悪の事態に到達したのである。【以下、次回】

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