礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

特に食糧の面における苦難は益々増加(東久邇首相宮)

2019-08-28 00:55:09 | コラムと名言

◎特に食糧の面における苦難は益々増加(東久邇首相宮)

 朝日新聞社編『終戦記録』(朝日新聞社、一九四五年一一月)から、「帝国議会における東久邇首相宮殿下の御演説」の部を紹介している。本日は、その四回目。

 鉄鋼の生産は開戦当初に比し約四分の一以下に低下し、鉄鋼に依存する鋼船の新造補給も爾後多くを期待し得ざる状況となり、また所在資材の活用戦力化も小運送力の低下、配炭の不円滑等の事情により減退の一路をたどるに至つた。
 石炭についても出炭実績は益々悪化するに加へ、陸海輸送力の大幅低下により、供給は逐次減少し、これがため中枢地帯の工業生産は全面的に下向き、本年〔一九四五〕中期以降これ等の地帯においては相当部分運転休止を見るが如き由々しき事態の発生すら予想せらるゝに至つた。
 また大陸工業〔塩〕の還送減少に伴ひソーダ工業を基礎とする化学工業生産は加速度的に低下するの已むなきに至りこれがため本年中期以降においては、金属生産は固より、爆薬等の供給にも支障を生ずる惧れ〈オソレ〉なしとせざる危機に瀕した。
 液体燃料においても既に日満支の自給力に依存するの外なき状況に在り、しかも貯油の払底と拡充の困難に伴ひアルコール、松根油等の生産増強に異常なる努力を傾けましたにも拘らず、航空機燃料等の減少は遠からざる将来において、戦争の遂行に重大なる影響を及ぼさざるを得ない状況に立至り、一方航空機を中心とする近代戦備の生産もまた空襲の激化による交通及び生産施設の破壊と、各種材料、燃料等の不足により、従来方式による大量生産の遂行は遠からず至難を予想られるゝに至つた。かくの如くわが国力は急速に消耗し、本年五、六月の交〔かわりめ〕においては、近代戦を続行すべき物的戦力の基盤は極度に弱められ、軍官民相協力して凡ゆる〈アラユル〉対策を講じ国力の恢復に異常なる努力を捧げたにも拘はらず、近き将来において、物的国力の徹底的転換を図ることは漸く至難なるものあるを思はしめ、殊に沖縄戦の終末以来形勢は全く重大化するに至つた。加ふるに長期に亘る戦争の結果、国民生活特に食糧の面における苦難は益々増加すると共にインフレーシヨンは逐次一般に浸潤せんとし、戦力の現況は戦争の前途に対し深甚なる考慮を要するに至つた。この間、わが特別攻撃隊は悲愴極りなき尽忠の精神を発揮して赫々たる偉勲を樹て、硫黄島、フイリピン、沖縄島等における陸海の将兵また一丸となり奮戦力闘、よく進攻の連合国軍に甚大なる出血を強要する等、わが陸海の精鋭は大東亜全戦域に亘り、一死以て皇国防護の大義に生くる伝統の勇武を発揮し、一億国民また来るべき本土決戦に完璧の防衛態勢を以て一挙に上陸連合国軍を撃滅すべく増産に、築城に、軒昂たる意気を示したのである。【以下、次回】

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