礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

ミリオン・ブックス版『日本語はどういう言語か』について

2020-12-23 07:07:18 | コラムと名言

◎ミリオン・ブックス版『日本語はどういう言語か』について

 年末の片づけをしていたところ、三浦つとむ著『日本語はどういう言語か』のミリオン・ブックス版が出てきた。出てきたのは、その第二刷で、一九六一年(昭和三六)五月、「株式会社講談社」の発行である。定価一六〇円。本扉の裏に、「装幀 加山又造/挿絵 根本 進」とある。
 さっそく、講談社学術文庫版(一九七六年六月)と比較してみると、いくつかの点で違いがみられた。
 ミリオン・ブックス版には、「まえがき」がなくて、「あとがき」がある。逆に、講談社学術文庫版のほうは、「まえがき」があって、「あとがき」がない。
 そのほか、章立てにも、若干の違いがあるが、これについては、数日後に述べる。
 本日は、ミリオン・ブックス版の「あとがき」を紹介してみたい。

    あ と が き

 日本語は、世界的に見て、非常に特殊な言語だといわれています。実際、文法構造を外国語のそれとくらべてみると、ずいぶん大きなちがいがあります。外国語にはあるが日本語にはない品詞も、あるようです。しかしこのことは、日本語がかたわの言語であるということを意味するものではありません。ある意味で、日本語は原始的な性格をもつ、とはいえますが、日本語なんか研究したって言語の一般的な理論はうまれない、ということにはならないのです。
 言語というものは、思想の表現の一つのありかたです。表現としては、言語のほかに絵画・写真・映画・音楽その他いろいろな種類があって、それぞれ持殊性をもっています。その中でも、言語は見たところ非常に簡単な、それでいて分析しにくい存在です。言語を絵画や映画などとくらべてみると、ずいぶん大きなちがいがあります。しかしこのことは言語が表現としてかたわであるとか、ほかの表現の種類とまったく別なものであるとかいうことを意味するものではありません。ですから、言語を研究することによって、そこから表現の一般的な理論をひきだすこともできるのです。
 この本の第一部では、日本語についての基礎的な理解のために、言語の一般的な理論をのべました。表現の一般的な理論にも触れてあるので、表現のいろいろな種類を理解するための糸口にもなると思います。また第二部の中では、学校で文法を勉強している学生のみなさんのために、日本語の文法構造をくわしく説明しておきました。いま使われている文法の教科書や参考書は、表現についての科学的な分析が不充分なために、日本語のかたちの上での結びつきをとりあげて整理し解説するにとどまっているものが多いようです。その結果、文法の勉強は、科学を身につける楽しいものではなく、頭痛の原因になりかねませんでした。この本が、文法の勉強で苦しんでいるみなさんにとって、文法の科学的な理解を助けるものとなり、参考書としてもお役に立つよう望んでおります。
 根本進氏のサイレント漫画「クリちゃん」は、認識構造をどう表現するかという点から見てもたいへんおもしろく、教えられるところがたくさんあります。特におねがいして、さし絵を描いていただきました。さまざまの無理をこころよくきいて下さった根本氏に心からお礼を申し上げます。

  昭和三十一年八月               著   者

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