礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

講談社学術文庫版『日本語はどういう言語か』の「まえがき」

2020-12-24 04:59:34 | コラムと名言

◎講談社学術文庫版『日本語はどういう言語か』の「まえがき」

 昨日の続きである。昨日も述べたように、ミリオン・ブックス版の『日本語はどういう言語か』には、「まえがき」がなくて、「あとがき」がある。逆に、講談社学術文庫版の『日本語はどういう言語か』には、「まえがき」があって、「あとがき」がない。
 そこで本日は、講談社学術文庫版の「まえがき」を紹介してみよう。

    ま え が き

 世界の言語は約三千あるといわれていますが、億をこえる人たちが毎日生活で使っている言語はわずかしかありません。日本語はその一つです。この言語はほかの言語と共通した性質を持っていると同時に、日本語独自の性質をも持っています。日本語を言語として理解するということは、この二つの側面をむすびつけて理解することを意味します。
 言語学が言語の共通性をすでに科学的に明らかにしていて、それが常識になっているならば、日本語について語るときにもその特殊性をとりあげればすむわけです。ところが、言語学はまだそこまで進んでいません。共通性が明らかになっていないと、それにむすびついている特殊性も正しく理解できないことになります。言語学の建設はヨーロッパの学者が中心になってすすめられてきたために、ヨーロッパの言語の特殊性でしかないものを言語の共通性にしてしまっているところもあって、これで日本語を説明するとおかしなものになってしまいます。それゆえ、日本語の研究によって言語の共通性をも明らかにし、言語学の確立に役立てたいと考える学者があらわれました。私もこの考えに賛成です。
 そんなわけで、現状では、科学的な言語学の初歩をお話ししながら日本語について説明しなければならないのですが、残念ながらそのような本はまだどこにもありません。私はそういう本をつくろうと思って、二十年前に講談社のミリオン・ブックスの一冊に『日本語はどういう言語か』を書きました。しかしこの本はページ数がすくなくて、読者の知りたいとのぞんでいる問題に充分答えることができませんでした。それに、あとで研究をすすめていくうちに、部分的に正しくない説明のあることに気づきました。このまちがいの部分は、専門的な論文のなかでとりあげて、訂正しておきましたが、機会があったらもうすこし紙数をふやして、全面的に書きなおしたいと考えていました。
 いま読者の手にしておられるのは、二十年前の本の改訂新版です。紙数をかなりふやしたにもかかわらず、文庫本のかたちで出るために、安い値段になったことをたいへんうれしく思っております。

 一九七六年四月            三 浦 つ と む

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