◎ミリオン・ブックスと講談社
机上にある『日本語はどういう言語か』のミリオン・ブックス版は、一九六一年(昭和三六)五月二五日発行の第二刷である。
その巻末には、「ミリオン・ブックス総目録」というものが付いていて、そこには、九十三の書名が挙げられている。
これをザッと見てみると、著名な人物が書いた本、話題になった本などが、数多く含まれていることに気づく。例えば、次のような本である。
M104 中野重治 むらぎも 180円
M109 川端康成 山の音 150円
M112 池田弥三郎 はだか風土記 180円
M119 きだみのる 気違い部落紳士録 170円
M121 北原武夫 告白的女性論 190円
M501 佐藤春夫 晶子曼陀羅 140円
M503 大江健三郎 芽むしり仔撃ち 180円
M509 磯村英一 スラム 150円
M510 江藤 淳 夏目漱石 170円
M523 岩井弘融 犯罪文化 130円
M527 平野 謙 芸術と実生活 180円
M551 唐沢富太郎 日本人の履歴書 180円
ただ、「ミリオン・ブックス」全体の趣旨が明確でない。書き下ろしのものもあれば、そうでないものもある。「新書」のようなところもあれば、「文庫」のようなところもある。
ミリオン・ブックスの刊行が始まったのは、一九五四年(昭和二九)であるという。最初に出たのは、畔柳二美(くろやなぎ・ふたみ)の『姉妹』(M101)、佐藤春夫の『晶子曼陀羅』(M501)のいずれかと思われる。
講談社現代新書の刊行が始まったのは一九六四年(昭和三九)、講談社文庫の刊行が始まったのは、一九七一年(昭和四六)、講談社学術文庫の刊行が始まったのは、一九七六年(昭和五一)である。ミリオン・ブックスは、それらに先行し、かつ、それらへの途を切り拓いた。大日本雄弁会講談社、株式会社講談社の歴史においては、きわめて重要な位置を占める叢書だったといってよかろう。ところが今日、ウィキペディアでミリオン・ブックスのことを調べようとしても、そもそも「ミリオン・ブックス」という項がない。
三浦つとむは、「大日本雄弁会講談社」時代の「ミリオン・ブックス」から、『日本語はどういう言語か』を出した(第一刷、一九五六年九月二五日)。吉本隆明が、この本を読んで刺激を受け、『言語にとって美とは何か』(勁草書房、一九六五)を書いたことは、よく知られている。
講談社学術文庫版『日本語はどういう言語か』が出たのは、一九七六年六月三〇日のことであった。講談社学術文庫が創刊された年であった。この文庫版の「あとがき」を吉本隆明が執筆していることは、二五日のブログで紹介した通りである。