礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

事件がパンドラの箱を開けたと捉えるのはマズイ(青木理)

2022-08-11 03:35:39 | コラムと名言

◎事件がパンドラの箱を開けたと捉えるのはマズイ(青木理)

 清水澄の論文「帝国憲法の解釈に付いて」を紹介している途中だが、ここで、時事ネタを入れる。
 今月七日の「スポーツ報知」電子版(8:55配信)で、‶青木理氏、「旧統一教会」と政治家の関係で「安倍元総理の銃撃事件がパンドラの箱を開けたと捉えるのは絶対にマズイ」〟という記事を読んだ。
 そこには、ジャーナリストの青木理さんが、TBS系「サンデーモーニング」でおこなった発言が、次のように紹介されていた。

 TBS系「サンデーモーニング」(日曜・午前8時)は7日、旧統一教会の世界平和統一家庭連合と政治家との関係について特集した。
 その中で岸田文雄首相が10日に内閣改造を行う考えを示したが人事について「新閣僚だけではなく、現閣僚や副大臣を含めて当該団体との関係をしっかり点検してその結果を明らかにして適正な形で見直すことを指示したい」と述べたことを伝えた。
 コメンテーターでジャーナリストの青木理氏は一連の問題に「重要な点なので強調しないといけないのは、安倍元総理の銃撃事件がパンドラの箱を開けたと捉えるのは絶対にマズイんです。ある意味で暴力の連鎖を呼びかねないわけですから、そういう捉え方を絶対にマズイと強調しなくてないけない」と指摘した。【以下、略】

 この番組を見ていたわけではないので、この記事から、青木理さんの真意を読みとることは難しい。しかし、青木さんが、「暴力の連鎖を呼びかねない」と指摘されているのは、たいへん重要なことではないかと思った。
 今回の銃撃事件によって「パンドラの箱」が開いたという見方は、たしかにできる。事件のあと、ジャーナリズムによって、事件の背景が次々に明らかにされていったからである。しかし、こうした形で「パンドラの箱」が明けられたことによって、人々が「テロル」の効果を確認し、「暴力の連鎖」の空気が醸成される危険性は、十分ありうることである。
 おそらく青木さんは、先ほどのような言い方によって、ジャーナリズムやジャーナリスト、それに踊らされる私たちに対し、やんわりと警告を発したのであろう。
 すでに、このブログでも述べたことだが、一九二一年(大正一〇)九月に、安田財閥の安田善次郎が朝日平吾の手によって暗殺されるという事件があった。その事件から数年あと、政治学者の吉野作造は、「安田翁が如何にしてかの暴富を作つたかを思ふとき、社会の一角に義憤を起すものあるも怪むに足らぬ」という趣旨の文章を公表した(初出は、一九二六年後半か)。この文章で吉野は、亡くなった安田善次郎を厳しく鞭打つ一方で、テロリストの朝日平吾に、「不義を懲らす為には時に一命をすてて惜まない」古武士的精神を見出した。民本主義を唱え、大正デモクラシーの理論的に指導したリベラリストに、こうした過激な発言があったことに、私は驚いた。
 その安田善次郎暗殺事件から、百年ほど経って、今回の安倍元首相銃殺事件が起きた。さすがに今回は、亡くなった安倍元首相を鞭打ち、狙撃者某を称えるような言動をおこなう「知識人」は、あらわれていない。むしろ、青木理さんのように、「暴力の連鎖」を危惧する知識人があらわれていることに、注目する必要がある。
「スポーツ報知」電子版で、青木さんの発言を読んだ私は、日本という国は、この百年間で大きく変わった、という感を強くした。

※付記 以上のように書いたあと、ネット上で、以下のような記事を見つけた。

 爆笑問題の太田光は、8月7日放送の『サンデー・ジャポン』(TBS系)で、「そもそも、この問題、きっかけがテロであったことをマスコミはもう少し自覚しないといけない」として、「テロによってわれわれが動き出したっていう自覚を持たないと。こうすれば社会が動くって思う人が潜んでいる」と、“第2の山上” が出現することを危惧した。

 太田光さんの発言は、青木理さんの発言と同旨である。ただし、発言の順序は、『サンデーモーニング』の青木さんが先で、『サンデー・ジャポン』の太田さんがあとである。〈8月11日午前8時50分付記〉

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