◎本書はアクセント辞典の役にも立つ(平山輝男)
平山輝男『全日本アクセントの諸相』(育英書院、1940)から、「はしがき」を紹介している。本日は、その後半。
文中、傍点が施されている部分は、太字で代用した。
四、本書が東京アクセントに多くの紙面を費した事、特に語例を割合多く挙げた所以〈ユエン〉は地方の読者で『アクセント辞典』を始め、斯学関係書籍を入手してゐない方々の便宜を思つてである。国定教科書に出る語の中〈ウチ〉、一般的なものはなるべく之を収録した。特に動詞・形容詞に於てさうである。従つてアクセント辞典の役にも立つ訳である。
その語例は名詞(代名詞)。動詞・形容詞・副詞に分類して、その各〻〈オノオノ〉を各音節毎に同じ型の部に集めて置いた。動詞は活用の種類毎に区別した。これ等の記述は第一篇第二章以下第二篇・第三篇の地方記述に比すれば大変にくどく、且つ幼稚過ぎる感がないでもないが著者の意のある所を察せられたい。
国語諸方言の発音を特色づける要素の一〈ヒトツ〉である文アクセントも必要ではあるが、僅少紙数を以てしては省略する外はない。
五、語の表記には片仮名を用ゐた。万国音声記号を使へばよいのであるが、印刷上の都合によりやむを得ない。アクセントの山を示すには文字の 右側に、低い部分を示すには左側に線を引く事にした。線の無いところはその中間である(但し、全国比較一覧表には下位を示す左側の線は省略した)。が行鼻音はカ°キ°ク°ケ°コ°を以て示し、母音の無声化はその音節の右(又は左)側に△を附した。
アクセントの二段観、三段観乃至四段観は一長一短があるが、各地で十分表記する為には一方ばかりよられぬ場合がある。要はその地方に適応した方法を以てする事である。本書では出来るだけ、三段観で進めて行くが、それが不便な方言では二段観によつて表記し、必要があれば、その都度〈ツド〉註を加へる事にする。
その他、注意すべき事項は各章毎に説明する事とする。
六、本書出版に当り資料の一見を許され、諸種の御世話と助言とを戴いた東條操先生に厚く御礼申上げる次第である。
尚、小研究に様々の便宜を与へて下された金田一京助先生・橋本進吉先生・小林好日〈ヨシハル〉先生・折口信夫先生、並びに諸研究を拝見させて戴いた諸先生・諸先輩に深謝申上げねばならない。特に東京語に就いては佐久間鼎博士・神保格教授の多くの御著書に負ふ所が多く、三宅武郎氏の御研究に対しても同様で、深甚の敬意と感謝を捧げる次第である。地方に就いては特に服部四郎氏の御研究に負ふ所が甚大であつた事を併記してこゝに感謝する。アクセント分布図作製に当つては金田一京助先生・服部四郎氏・金田一春彦氏・池田要氏・大原孝道氏・藤原与一氏・玉岡松一郎氏・太田武夫氏・山脇甚兵衛氏方に負ふ所が多い。
最後に熱心に発音を聴かせして下された千五百有余の地方土着の方々、並びに御世話下された県学務部長・課長・視学・支庁長を始め多くの小学 校教職員その他の方々に衷心より感謝してやまない。
昭和十四年 初 夏 平 山 輝 男
平山輝男博士の労作『全日本アクセントの諸相』(育英書院、1940)は、「序論」、第一篇「東京アクセントの系統」、第二篇「近畿アクセントの系統」、第三篇「南東アクセント」、第四篇「一型アクセントの系統」、「結論」、「附録」という構成になっている。
明日は、これらのうち、第四篇「一型アクセントの系統」を紹介してみたい。
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