◎狙撃犯の逃走経路と喫茶店「川の音」という地点
警察庁長官狙撃事件については、いろいろ述べたいことがある。また、この間の毎日新聞記事(執筆・遠藤浩二記者)についても、いくつかコメントしたいことが残っている。
しかし、今回、この事件については、二点のみを補足し、それ以外は次の機会に回したい。補足したいのは、狙撃犯の逃走経路について、および喫茶店「川の音」という地点についてである。
中村受刑者の証言によれば、彼は狙撃後、用意しておいた自転車に乗ってアクロシティの敷地内を走行、マンションDポート沿いのスロープを下って、アクロシティ西側の道路に出た。これが午前八時三〇分前後のことだった。
その後、その道路を道なりに南下し、千住間道(せんじゅかんどう)にぶつかるところまでやってくる。ここは丁字路になっていて、丁字路の手前右側(西側)には「中華&喫茶 川の音」が、左側(東側)には「間道睦会館」がある。千住間道の向い側(南側)には、NTT荒川支店とその駐車場が見える。
おそらく中村受刑者は、丁字路手前の位置から、「支援役」が用意した軽自動車を確認したのであろう。そこで、「川の音」の店の横に、自転車を乗り捨てる。自転車の向きは、やってきた方向のままである(南向き)。スタンドは用いない。施錠もしない。
道路を渡って、NTT荒川支店の駐車場へ。ここで、「支援役」が運転する軽自動車に乗りこみ、千住間道を西へ。すぐに都営荒川線の踏切があり、踏切の左側(東側)には、荒川区役所前駅が見える。やがてサンパール荒川前交差点に至り、ここで明治通りにぶつかる。同交差点を右折し、明治通りを西へ。宮地交差点まで走って、そこで左折し、道灌山通りに入る。道灌山通りを南西に直進し、JR西日暮里駅の駅前まで来た。
同駅西口で、中村受刑者は自動車を降りる。これが、午前九時前後のことだった。山手線均一回数券で入構。内回り電車に乗って、新宿駅で降りた。
今日では、ストリートビューという便利なものがあり、私たちは、これによって、狙撃犯の逃走経路を「追体験」できる。
ストリートビューによって狙撃犯の逃走経路を追体験したことによって、ひとつ認識できたのは、喫茶店「川の音」(看板名は、「中華&喫茶 川の音」)という地点の重要性であった。
同喫茶店のところまでやってくると、道路をへだてた向い側に、NTT荒川支店とその駐車場が見える。この駐車場で待機していた「支援役」は、狙撃犯に向かって、何らかの形で、「異常なし」のサインを送ったのではないか。そのサインを見た狙撃犯は、喫茶店「川の音」の横に自転車を乗り捨てる。
「支援役」が、何らかの事情でNTT荒川支店の駐車場まで来られない、来られたとしても、警察官に職務質問を受けるなどしてサインが送れないなどのケースも、狙撃犯は、当然、想定していたと思われる。
その場合、狙撃犯はどうしたか。喫茶店の横に、自転車を乗り捨てるのは同じ。そのあとは、徒歩で、近くにある都電荒川線「荒川区役所前」駅に向かう。同駅から上り電車に乗り、「大塚駅前」駅で下車。JR山手線の大塚駅で内回り電車に乗り、新宿駅で降りた、と考えられる。
いずれにしても、喫茶店「川の音」という地点は、極めて重要である。狙撃犯が自転車を乗り捨てる場所は、この地点が最適なのである。というより、この地点以外には考えにくい。
平凡社新書『警察庁長官狙撃事件』によると、喫茶店の経営者は、その日の開店前、「変な自転車」があるのに気づいた。三日たっても、誰も取りにこない。そこで、南千住警察署の特別捜査本部に電話を入れたが、捜査員がやってきたのは、通報から三、四日たってからだったという(同書八五ページ)。
なお、ストリートビューによると、現在、喫茶店「川の音」は廃業し、その場所には、普通の民家が建っている。しかし、「他の日付を見る」の機能を使えば、往時の「川の音」の姿を、容易に甦らせることができる。
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