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中国労働者の決起に続け!

2010年07月23日 23時31分54秒 | 職場人権レポートVol.1
ある農民工の告発


 7月22日放送のNHK「クローズアップ現代」で、中国の労働者ストの事を取り上げていた。現在、中国各地で労働者のストが頻発しているが、番組によると、そのストを主導しているのは、中国の新しい世代の農民工なのだそうだ。従来の農民工が、文字通り地方からの出稼ぎ農民で、農繁期には帰郷していたのに対し、この「新世代農民工」は、元々農民ですらない。ただ単に地方から職を求めて都会に出て来た若者で、いわば日本の派遣労働者に近い存在だ。

 この新世代農民工は、旧世代とは違い教育水準も高い。その彼らが、パソコンや携帯を駆使して海外からの情報を入手し、政府の情報統制をかいくぐって、各地の労働者と連携を取り合い、続々とストに立ち上がっているのだ。もはや中国政府も、労働者のストを完全に弾圧する事など出来なくなっている。確かに中国は今も昔も共産党独裁で、民主化運動やチベット・ウイグル独立運動のサイトへのアクセスも依然として規制されている。しかし、それでも海外からの情報は容赦なく入ってくる。数十年来の改革開放政策によって、世界経済と完全に結びついた今の中国では、昔のような情報鎖国なぞ、もはや不可能なのだ。

 それに加えて、中国経済の高度成長や内陸部の開発進展により、沿岸部で特に顕著になっている人手不足や、労働契約法施行による権利意識の向上も、新世代農民工にとっては追い風となっている。「国全体の経済が拡大する中で、何故自分たちだけが、いつまでも貧しいまま、長時間・低賃金労働に縛り付けられていなければならないのか?」と、怒りをたぎらせているのだ。
 6月16日付ニューズウィーク日本版「暴発する中国」特集号でも、台湾系資本「富士康」のiPad請負工場で起こった従業員の連続自殺事件や、ホンダ部品工場でのストが取り上げられている。そこでは、外資系企業による表向きの広告とは裏腹に、月額僅か300ドルほどの低賃金で、1日12時間労働に駆り立てられている組立ライン工や、1工程僅か7秒間の超スピードで、デルのコンピューター製造に追われる「富士康」の過酷な労働実態が語られている。

 中国にもなるほど工会(労働組合)はある。しかし、かつて中国革命の一翼を担った伝統あるこの労組全国組織(中華全国総工会)も、今や完全な共産党政府の走狗に成り下がってしまった。中国の労働者は、もはやこんな官製労組には何の期待も寄せていない。今回の労働者ストも、官製労組の与り知らぬ所で、山猫スト(自然発生的な非合法スト)・職場放棄の形で始まったものだ。
 それでもストが一旦開始されれば、教育水準も高く海外事情にも通じた彼らは、貧困・劣悪な労働条件を物ともせずに、近隣や各地の労働者とも連携し合いながら、したたかに闘いを進め、要求を着実に勝ち取ってきた。
 共産党独裁の下で、御用組合以外は一切認められない中でも、これだけの闘いが展開できるのだ。面従腹背で職場の現状に不満を持ちながらも、上には一切何も言えずに、仲間内で傷口を舐めあうか罵りあうか、アキバやマツダの事件で暴発するしかない、日本の多くの非正規労働現場の様子とは、雲泥の差ではないか!

 その違いは一体どこから来るのか。それは何と言っても、中国が経済のインフレ(成長)基調にある中での、貧困に打ち捨てられた新世代農民工たちの、格差に対する怒りだろう。少なくとも彼らには、格差が目に見えているのだ。それに加えて、実際の闘争経験を通して、勝利や敗北の実感を得ている事が大きい。「実際に闘ってみてどうだったか?」「何故勝てたのか?何故負けたのか?」「次に繋げるためにはどうしたら良いか?」という事を、日々自問しているのだ。
 それが、経済がデフレ(縮小)基調にある中での、闘わなくなって(闘えなくなって)久しい、同じく貧困に打ち捨てられた日本の非正規労働者との大きな違いだろう。日本の貧困層は「不景気だから仕方が無い」と思い込まされているのだ。実際は、大企業は、デフレ基調の中でも、非正規・不安定労働への置き換えと下請け叩きや賃金ダンピングによって、法外な利益を得ているにも関わらず。
 闘わなければ、勝利や敗北の実感も湧かず、次の展望も見えてこない。逆に要求貫徹の意志さえ固まれば、具体的な闘争戦術は自ずと浮かんでくる。例えば冒頭のユーチューブ動画「ある農民工の告発」の中にもあるように、実際にタイムカードを押さえる事で、労働時間の偽造も見破られるようになる。そこでは、私が給料支給額照らし合わせの為に毎月行っている就労時間の記録取りを、タイムカード撮影という、更に徹底した形で行っていた。

 それに対して、中国労働者の決起を反日暴動の延長で捉え、恰も日本の労働者に敵対するものであるかのように描く者がいる。日本の財界や外国人排斥を唱える右翼たちだ。先述のNHK番組の中でも、パナソニックの中国現地法人関係者は、「悪夢の様なスト」への慄きを隠そうともせず、「如何にそれを未然に抑えるか」という発言に終始していた。
 表向きは中国の共産党独裁を非難し民主化を要求しておきながら、実際に労働者が民主化に立ち上がり始めた途端に、踵を返すように反日だと貶める。正にダブル・スタンダード(二枚舌)と言う他ない。それは、「社会主義国」の外見に惑わされて中国の人権弾圧に及び腰の、旧左翼(共産党・社民党)や体制保守(自民党)によるダブル・スタンダードの、ちょうど裏返しでしかない。

 しかし、彼ら中国の労働者は、本来、反日でもなければ日本の労働者の敵でもない。19世紀の「義和団の乱」の叛徒のように、西洋人排斥を唱えている訳でもない。「自分たちを人間扱いしてくれ」「途上国や貧民の犠牲の上に、先進国や富裕層だけが潤う不公平を改めてくれ」と言っているのに過ぎないのだ。自分たち日本のワーキングプアと、同じ要求を掲げているに過ぎないのだ。それを「反日」に押しやるか「国際連帯」に転化させるかは、偏に我々の姿勢にかかっている。 
 確かに、今回ストに決起した新世代農民工と言えども完全無欠の存在ではない。ひょっとしたら、反日暴動を主導した「糞青」と呼ばれる若者も加わっていたかも知れない。しかし、そんな事を言い出せば、「朝鮮・シナ人排斥」を唱える日本のネットウヨクも同じだ。それで、同じ貧乏人同士がいがみ合って、得をするのは一体誰か、よく考えるが良い。
 そんな心配をしている暇があるなら、このストの進歩性にもっと注目すべきだろう。アキバやマツダで暴発するしかない日本の多くの若者よりは、よっぽど前向きではないか。政府・財界・右翼による反日脅威論に絡み取られている限り、奴隷状態からの脱却なぞ到底不可能だ。中国を初め全世界の労働者の闘いと連帯してこそ、初めて自らの解放も勝ち取る事が出来るのだ。

(関連情報)
・「もはや待てない」 中国の新世代農民工、国家の安定に挑戦=全国労組連合報告(大紀元)
 http://www.epochtimes.jp/jp/2010/06/html/d94320.html
・中国工場での賃上げストライキは何故起こったのか~労働争議報道から考えること~(大和総研)
 http://www.dir.co.jp/souken/consulting/researcher/insite/100716.html
・「「工場労働者の反乱」で中国経済の漂流が始まる」(晴耕雨読)
 http://sun.ap.teacup.com/souun/2921.html

(追記)
G20 Protest The Real Battle of Toronto

(注)これは今年6月にカナダのトロントで開催されたG20(拡大先進国首脳会議)に反対する市民団体のデモの動画である。従来の日・米・欧によるG8に加え、中国・インド・ブラジルなどもG20として参加している。それら先進国や多国籍資本の搾取に抗議するデモだ。中国の侵略に抗議するチベット人の姿も見える。日本の保守的市民からすると過激に見えるかも知れないが、欧米ではこれがごく当たり前のデモの姿なのだ。
コメント (2)
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