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転載3:扶養義務と生活保護制度の関係の正しい理解と冷静な議論のために(生活保護問題対策全国会議)

2012年05月30日 08時26分15秒 | 一人も自殺者の出ない世の中を
アフガン※先日の記事の参考資料として引き続きブログにアップします。

2012(平成24)年5月30日

扶養義務と生活保護制度の関係の正しい理解と冷静な議論のために
 
第1 はじめに
 人気お笑いタレントの母親の生活保護受給を週刊誌が報じたことを契機に,生活保護制度と制度利用者全体に対する大バッシングが起こっている。
 そこでは,扶養義務者による扶養が生活保護適用の前提条件であり,タレントの母親が生活保護を受けていたことが不正受給であるかのような論評が見られるが,現行生活保護法上,扶養は保護の要件ではない。
 息子であるタレントの対応に対する道義的評価については価値観が分かれるところかもしれないが,本件が不正受給の問題でないことは明かである。
 また,扶養が保護の要件となっていない現行法を非難する主張に応えて,小宮山厚生労働大臣が,「親族側に扶養が困難な理由を証明する義務を課す」という事実上扶養を生活保護利用の要件とする法改正を検討する考えを示す事態にまで発展している。
 しかし,生活保護利用者の息子が人気タレントとなって多額の収入を得るに至るという,極めて例外的な事例を根拠に,現在改正の在り方を関係審議会に諮問中の厚生労働大臣が,法改正にまで言及すること自体,軽率のそしりを免れない。そもそも,扶養が保護の要件とされていないのには理由があるのであり,これは先進諸外国にも共通しているところである。扶養を保護の要件とすることは,救貧法時代の前近代社会に回帰する大「改正」であり,ただでさえ「スティグマ(恥の烙印)」が強くて利用しにくい生活保護制度をほとんど利用できないものとし,餓死・孤立死・自殺の増加を招くことが必至である。
 まずは,民法上の扶養義務の範囲と程度はどのようになっているのか,現行生活保護制度における扶養義務の取扱いはどのようになっているのか,先進諸外国の制度はどうなのかについて,正確な理解をした上で,報道や議論をしていただきたく,本書面を発表する次第である。

第2 民法上の扶養義務者の範囲と程度について
1 民法上の扶養義務者の範囲
~三親等内の親族が扶養義務を負うのは極めて例外的な場合である。

 扶養義務の根拠条文である民法752条には「夫婦は同居し,互いに協 力し扶助しなければならない。」,同法877条1項には,「直系血族及び兄弟姉妹は,互いに扶養をする義務がある。」,同条2項には「家庭裁判所は,特別の事情があるときは,前項に規定する場合の外,三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。」と定められている。
 同法877条1項に定められた直系血族と兄弟姉妹が絶対的扶養義務者と呼ばれているのに対し,同条2項に定められた三親等内の親族は相対的扶養義務者と呼ばれ,家庭裁判所が「特別の事情」があると認めた例外的な場合だけ扶養義務を負うものとされている。
 判例上も,三親等内の親族に扶養義務を認めるのは,それを相当とされる程度の経済的対価を得ている場合,高度の道義的恩恵を得ている場合,同居者である場合等に,できる限り限定して解されている(新版注釈民法(25)771頁)。

2 求められる扶養の程度
~強い扶養義務を負うのは,夫婦と未成熟の子に対する親だけである。
~兄弟姉妹や成人した子の老親に対する扶養義務は,「義務者がその者の社会的地位にふさわしい生活を成り立たせたうえでなお余裕があれば援助する義務」にとどまる。
~具体的な扶養の方法程度は,まずは当事者の協議で決める。
~協議が調わないときは家庭裁判所が決めるが,個別ケースに応じて様々な事情を考慮するので一律機械的にはじき出されるものではない。

 求められる扶養の程度について,民法上の通説は次のように解している。
① 夫婦間及び親の未成熟の子に対する関係…生活保持義務関係
 生活保持義務とは,扶養義務者が文化的な最低限度の生活水準を維持した上で余力があれば自身と同程度の生活を保障する義務である。
② ①を除く直系血族及び兄弟姉妹…生活扶助義務関係
 生活扶助義務とは,扶養義務者と同居の家族がその者の社会的地位にふさわしい生活を成り立たせた上でなお余裕があれば援助する義務である。
 つまり,強い扶養義務を負うのは,夫婦と未成熟の子に対する親だけで あり,兄弟姉妹同士,成人した子の老親に対する義務(今回のタレントの事例),親の成人した子に対する義務は,「義務者がその者の社会的地位にふさわしい生活を成り立たせたうえでなお余裕があれば援助する義務」にとどまる。
 そして,民法879条は,「扶養の程度又は方法について,当事者間に協議が調わないとき,又は協議することができないときは,扶養権利者の需要,扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して,家庭裁判所が,これを定める」と規定している。つまり,親族間の援助に関することであるから,具体的な扶養の程度又は方法の決定にあたっては,国家による介入は控え,まずは当事者間の協議に委ねて,その意思を尊重することとしている。
 協議が調わない場合には家庭裁判所がこれを定めるが,その場合には,権利者の需要(困窮度),義務者の資力だけでなく,権利者の落ち度,扶養に関する合意(当事者の意思),両者の関係の強弱・濃淡,当該地域の扶養慣行,社会保障制度の利用状況や利用可能性等を総合考慮して決するものとされており,機械的・一律に金額が算定されるようなものではない(前掲796頁)。

3 扶養義務を過度に強調することは現代社会に合わない

 そもそも,民法が親族扶養を定めていること自体,その根拠は明確でないとされている(新版注釈民法(25)726頁)。
 一応,親族共同生活体という観念上の存在が法的に承認され,その限度で生活共同の義務が認められているものと考えられているが,「無縁社会」とまでいわれる現在,この「親族共同生活体」という観念がますます実体を欠くものとなっていることは明らかである。すなわち,そもそも,民法上の扶養義務を強調すること自体,現代社会の実態と合わないともいえる。
 「近時,少子化,核家族化とともに兄弟姉妹の数も少なく,これらの者が成人した後隣居生活をすることは稀であり,それぞれ離れて独立の生活を送っている場合には交流も少なくなる」ことから,兄弟姉妹については,三親等内の親族同様,「特別の事情」がある場合に家庭裁判所の審判によって扶養義務を負わせるようにすべきとの見解もある(同前771頁)。
 後述のように,先進諸国では,別居の兄弟姉妹はもちろん,別居の成人親子間において扶養義務を課す例はまれであることからしても,立法論としては,兄弟姉妹については扶養義務を廃止することも十分に検討に値する。
 また,裁判所職員総合研究所監修のテキストは,「民法の認める親族的扶養の範囲は,近代法に類例をみないほど広範であり,特に現実的共同生活をしない親族にまで扶養義務を課していることを考えると,私的扶養優先の原則の適用に際しては,特に慎重な考慮を払うとともに公的扶助を整備強化することによってその補充性を緩和し,できるだけ私的扶養の機会を少なくすることが望ましい。」(司法協会編『親族法相続法講義案(6訂補訂版)』195頁)と述べているが,後に述べる先進諸外国の制度との対比からも真っ当な方向性といえる。

第3 扶養義務と生活保護との関係について
 1 扶養義務者による扶養は保護の要件ではない

 保護の要件について定めた生活保護法4条1項の規定は,「保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と定めている。これに対し,生活保護法4条2項は,「民法に定める扶養義務者の扶養は保護に優先して行われるものとする」と定め,あえて「要件として」という文言を使っていない。
 「扶養が保護に優先する」とは,保護受給者に対して実際に扶養援助(仕送り等)が行われた場合は収入認定して,その援助の金額の分だけ保護費を減額するという意味であり,扶養義務者による扶養は保護の前提条件とはされていない。
 この点は,厚生労働省も,自公政権時代の2008年に「扶養が保護の要件であるかのごとく説明を行い,その結果,保護の申請を諦めさせるようなことがあれば,これも申請権の侵害にあたるおそれがあるので留意されたい。」との通知を発出している(昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」第9の2(『生活保護手帳2011年度版』288頁))。

2 扶養を保護の要件とするのは前近代社会への回帰
 ~旧救護法・旧生活保護法は「イエ(家)制度」を守るため扶養を保護の要件としていたが,現行生活保護法は,先進諸国の例にならい,扶養を保護の要件から外した。

 1929年制定の救護法では,扶養義務者に扶養能力があるときは,まずは扶養義務者が扶養しなければならないとして,扶養が保護の要件とされていた。その趣旨は,家族制度・隣保制度が前提とされていたので,もし民法の認める扶養義務に対して何ら考慮を払わず,国家,公共団体が救護したとすれば,家制度はたちまち破壊され,救護は濫救となり弊害が続出することにあるとされていた(新版注釈民法(25)756頁)。
 そして,1946年制定の旧生活保護法でも,「扶養義務者が扶養をなしうる者」は実際に扶養援助がなされていなくても保護の要件を欠くとされていたが,1950年制定の現行生活保護法ではこの欠格条項は撤廃されたのである。
 現行生活保護法制定当時の厚生省保護課長であった小山進次郎は,その趣旨を次のように説明している。
 「生活保護法による保護と民法上の扶養との関係については,旧法は,これを保護を受ける資格に関連させて規定したが,新法においては,これを避け,単に民法上の扶養が生活保護に優先して行わるべきだという建前を規定するに止めた。一般に公的扶助と私法的扶養との関係については,これを関係づける方法に三つの型がある。第一の型は,私法的扶養によってカバーされる領域を公的扶助の関与外に置き,前者の履行を刑罰によって担保しようとするものである。第二の型は,私法的扶養によって扶養を受け得る筈の条件のある者に公的扶助を受ける資格を与えないものである。第三の型は,公的扶助に優先して私法的扶養が事実上行われることを期待しつゝも,これを成法上の問題とすることなく,単に事実上扶養が行われたときにこれを被扶助者の収入として取り扱うものである。而して,先進国の制度は,概ねこの配列の順序で段階的に発展してきているが,旧法は第二の類型に,新法は第三の類型に属するものと見ることができるであろう。」(小山進次郎『改訂増補生活保護法の解釈と運用』119頁)
 すなわち,1950年の段階で,私法的扶養を強調することは封建的で時代錯誤であるから,現行制度のように改めたものを,現代において扶養を生活保護の要件とすることは,60年以上も前の前近代的時代に逆行することになる。

3 扶養義務を果たさない扶養義務者に対する費用徴収

 生活保護法77条1項は,「被保護者に対して民法の規定により扶養の義務を履行しなければならない者があるときは,その義務の範囲内において,保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は,その費用の全部又は一部を,その者から徴収することができる。」と定めている。そして,同条2項は,「前項の場合において,扶養義務者の負担すべき額について,保護の実施機関と扶養義務者の間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,保護の実施機関の申立により家庭裁判所が,これを定める。」と定めている。
 このように,生活保護法は,扶養義務者が真に富裕であるにもかかわらず援助しないケースでは,扶養義務者から費用を徴取できるとの規定をおいている。したがって,現行法でも,明らかに多額の収入や資産を有しているが扶養を行わない扶養義務者に対しては,この規定を利用して費用徴収をすることができる。しかし,この規定を一般に広く適用することは,事実上扶養を保護の要件にするのと類似の効果を招き,後に述べる弊害をもたらす危険があるので望ましくない。
 報道によれば,今回のお笑いタレントのケースでは,高収入を得るようになってから福祉事務所と協議のうえ仕送り額を決めて仕送りをし,今年に入ってから増額もしたということである。タレントの年収と仕送り額によっては,道義上その金額の妥当性が問題になる可能性はあるが,前述のとおり,成人した子の老親に対する扶養義務は比較的弱い義務であり,具体的な扶養の金額は,当事者の意思も含めた様々な事情を総合考慮して決すべきものなので,額の当否を一概に判断するのは困難である。
 いずれにせよ,福祉事務所と協議のうえ仕送り額が決められ,そのとおりの仕送りがなされていたということからすれば,少なくともタレントの母親の生活保護受給が「不正受給」にあたるものでないことは明らかである。

4 生活保護実務上の扶養義務の取り扱い

(1)違法な水際作戦の常套手段 ~後を絶たない餓死事件
 前述のとおり,本来,扶養は保護の要件ではないが,現場では,保護の要件であるかのように説明して申請を断念させる「水際作戦」の常套手段とされている。
 日弁連が2006年に実施した全国一斉生活保護110番の結果では,違法な水際作戦の可能性が高いと判断された118件のうち,「扶養義務者に扶養してもらいなさい」という対応が49件と最も多かった。
 古くは,1987年1月,札幌市白石区の3人の子どもを持つ母親が,再三福祉事務所に保護を申請したにもかかわらず,福祉事務所が,「働けば何とか自活できるはず」「離婚した前夫(子の父)の扶養の意思の有無を書面にしてもらえ」などと主張して,保護申請として処理せず,放置した結果,「餓死」したという,余りにも有名な事件がある。
 また,「保護行政の優等生」「厚生労働省の直轄地」と言われた北九州市において,2005年から3年連続で生活保護をめぐる餓死事件が発生したが,2007年の餓死事件は,生活保護の辞退を強要された52歳の男性が「おにぎり食べたい」という日記を残して死亡したためマスコミでも大きく報道された。このうち,2005年に北九州市八幡東区で起きた孤独死事件は,生前,生活保護の申請に何度も福祉事務所を訪れた被害者に,福祉事務所の担当者が,兄弟姉妹による扶養の可能性がないか確認してから来るようにと違法に追い返したことが原因であった。また,2006年の北九州市門司区での餓死事件も,福祉事務所の担当者が,子どもに養ってもらうようにとして違法に申請を拒絶したことが原因で起きた。
 扶養義務を利用した追い返しは,水際作戦の常套手段となっており,少なくない餓死事件も引き起こしているのである。

(2)扶養照会自体が保護申請上の大きなハードルになっている
 現行生活保護実務上,生活保護の申請があると福祉事務所は,直系血族(親子)と兄弟姉妹に対して,扶養が可能か否かについての照会文書(扶養照会)を送付する。扶養が可能であるとの回答が返ってくれば,具体的に幾らの仕送りが可能であるかの協議を行い,実際に仕送りがされた額を収入認定し,その分の保護費を減額するが,そうでない場合には,当該世帯の最低生活費を支給することになる。
 しかし,それでも扶養照会の存在は,保護申請をためらわせる大きなハードルになっている。疎遠になっている親・兄弟姉妹に,生活保護を利用するほど困窮しているという“恥”を知らせたくないというプライドや意地から,生活保護の利用を拒絶し,過酷なホームレス生活を続けている人なども少なくない。

第4 先進諸外国の扶養義務の範囲と生活保護(公的扶助)制度との関係

1 イギリス
(1)扶養義務者の範囲
 配偶者間(事実婚を含む)及び未成熟子(16歳未満)に対する親。いずれも同居が前提。
(2)扶養義務と公的扶助との関係
 上記のとおり同居が前提であるので,世帯の問題として把握されることになり,そもそも「優先」関係すら問題にならない。
 成人した子の老親に対する扶養義務もないので,今回のお笑いタレントのようなケースは問題になりえず,イギリス人に説明しても何が問題なのかさえ理解できないであろう。

2 ドイツ
(1)扶養義務者の範囲
 偶者間,親子間及びその他家計を同一にする同居者。但し,高齢者,障害者に対する扶養義務は,年10万ユーロ(約1200万円)を超える収入がある親又は子。
 高齢者や障害児を持つ世帯の貧困が社会問題となり、2003年に導入された「基本生計保障」制度において子と親の資産を合算した場合の保有限度を10万ユーロと高く設定することによって、事実上扶養義務の範囲を狭め、上記課題の解消を図った。
(2)扶養義務と公的扶助との関係
 同居していない扶養義務者から実際に扶養が行われれば収入認定の対象となる。日本と同様,扶養は保護の要件ではなく,優先関係にあると言える。
 同居していない扶養義務者が扶養を行わない場合,扶養請求権を実施機関に移転させて償還請求をすることができるが(日本の生活保護法77条と類似の規定),扶養権利者本人(未成年者は除く)が請求を望まない場合は例外とされている。すなわち,扶養を求めるかどうかを一義的には保護申請者に委ねており,実施機関は,当事者の意に反して扶養義務者に対する償還請求をすることはできない。

3 スウェーデン
(1)民法上の扶養義務者の範囲
 配偶者間(事実婚(Sanbo)含む)及び未成熟子(18歳未満)に対する親。
(2)扶養義務と公的扶助との関係
 イギリス同様世帯の問題であり,扶養の優先関係すら問題にならない。
 高齢者が,生計援助(生活保護)の申請を行う場合,子ども夫婦と同居している場合であっても,高齢者自身の生活費と家賃(高齢者一人の分)が援助の要否判定の基礎となり,子どもに親の扶養(金銭面・介護面とも)をする義務を課すことはない。ましてや,同居していない子どもに扶養義務を課すことなどあり得ない。
 したがって,今回のお笑いタレントのようなケースが問題になることはあり得ない。なお,スウェーデンでは,最低保障年金があり,年金額が低い場合は住宅手当などが加算される仕組みになっているため,高齢者が生計援助(生活保護)を受ける必要性があるケース自体がごく稀である。

4 フランス
(1)扶養義務者の範囲
 夫婦間と未成年(事実上 25 歳未満)の子どもに対する親
(2)扶養義務と公的扶助の関係
 イギリス,スウェーデン同様,優先関係すら問題にならない。

第5 扶養義務の強調は餓死・孤立死を招く
 小宮山大臣が言及した「扶養義務者に扶養困難な理由の証明義務を課す」とか,一部で主張されているように福祉事務所の調査権限を強化し,扶養義務者の資産も含めて金融機関に回答義務を課すような法改正がなされれば,どうなるであろうか。
 生活に困窮した人が,福祉事務所に生活保護の申請に行くと,親兄弟すべての資産や収入が強制的に明らかにされ,申請者本人が望まなくても,親兄弟は無理な仕送りを迫られることになるであろう。
 これはほとんどの場合,親兄弟にとって歓迎せざることであって,親族関係は,むしろ決定的に悪化し破壊されるであろう。
 あるいは,福祉事務所の窓口では,25年前の札幌市白石区での餓死事件のように,申請者に対し,「扶養義務者の扶養できない旨の証明書」をもらってくるようにと述べて追い返す水際作戦が横行するであろうが,法改正がなされれば,これは合法として容認され,餓死・孤独死・自殺事件が頻発することになるであろう。
 そもそも,生活に困窮している人は,親族もまた困窮していることが多い上,さまざまな葛藤の中で親族間の交際が途絶えていることも多い。先に述べたとおり,現状でさえ,扶養照会の存在を理由に保護申請をためらう人が多数存在するのに,扶養が前提条件とされれば,前記のような親族間での軋轢をおそれて申請を断念する人は飛躍的に増大することは間違いがない。
 日本の生活保護利用率は1.6%に過ぎず,現状でも先進諸国の中では異常な低さである(ドイツ9.7%,イギリス9.3%,フランス5.7%)。この状況に加えて,さらに間口を狭める制度改革がなされれば,確実に餓死・孤立死・自殺が増える。
 これは,緩慢なる死刑である。しかも,死刑囚ですら糧食を保障されているのに,それさえ奪うという意味では死刑よりも残虐な刑罰である。何人もそのような刑罰を受けるいわれはないし,何人もそのような刑罰を科す権限はない。制度改革を進めた政治家や報道機関は,死者に対してどのような責任がとれるのか,冷静になって慎重に検討することが今,求められている。
 かつて,2006年3月4日,大阪市立大学における日独ホームレス問題国際シンポジウムにおいて,前ドイツ連邦副議長であるアイティエ・フォルマー氏は,冒頭「その社会の質は,最も弱き人がどう扱われるかによって決定される」と挨拶され,「貧困者への施策を国政の最も重要な施策として位置づけ,国政を運用してきた」ことを強調された。
 日本においても,政治と報道にどのような「貧困政策」を盛り込むのかが,その「質」のあり方とともに問われている。
                                            以 上

 http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-entry-36.html
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転載2:利用者数の増加ではなく貧困の拡大が問題である(生活保護問題対策全国会議)

2012年05月30日 08時18分41秒 | 一人も自殺者の出ない世の中を
先日の記事の参考資料として引き続きブログにアップします。

2011年11月9日

利用者数の増加ではなく貧困の拡大が問題である~「生活保護利用者過去最多」に当たっての見解~

生活保護問題対策全国会議 、全国生活保護裁判連絡会、全国生活と健康を守る会連合会、近畿生活保護支援法律家ネットワーク、東海生活保護利用支援ネットワーク、生活保護支援ネットワーク静岡、生活保護支援九州ネットワーク、神戸公務員ボランティア、関西合同労働組合、北九州市社会保障推進協議会、福岡生存権裁判弁護団、生存権裁判新潟弁護団、NPO法人青森ヒューマンライトリカバリー、東京借地借家人組合連合会、無年金者同盟、NPO法人多重債務による自死をなくす会コアセンター・コスモス、和歌山あざみの会、くにたち・あみてぃ、反貧困ネットワーク、反貧困ネットワーク栃木、反貧困ネットワーク神奈川、反貧困ネットワーク埼玉、反貧困ネットワークあいち、反貧困ネット北海道、ユニオンぼちぼち(関西非正規等労働組合)、京都健康よろずプラザ、兵庫県精神障害者連絡会、NPO法人神戸の冬を支える会、釜ヶ崎医療連絡会議、女性ユニオン東京、女性と貧困ネットワーク、しんぐるまざあず・ふぉーらむ、NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ・福岡、しんぐるまざあず・ふぉーらむ沖縄、女性のための街かど相談室 ここ・からサロン、発言するシングルマザーの会、NPO法人自立生活サポートセンター・もやい、全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会、全国クレジット・サラ金問題対策協議会、笹島診療所、生活保障支援の会・名古屋、自由と生存の家実行委員会、NPO法人ほっとプラス、ホームレス総合相談ネットワーク、野宿者ネットワーク、みなから相談所、派遣労働ネットワーク・関西、社会保障解体に反対し公的保障を実現させる会、ホームレス法的支援者交流会、大阪いちょうの会(大阪クレジット・サラ金被害者の会)、非正規労働者の権利実現全国会議、全国追い出し屋対策会議、全国公的扶助研究会、夜まわり三鷹、日本アルコール関連問題ソーシャルワーカー協会、首都圏青年ユニオン、労働者福祉中央協議会(中央労福協)、反貧困ネットワークえひめ、NPO法人松山たちばなの会、全国「精神病」者集団(以上60団体)

(問合先)〒530-0047 大阪市北区西天満3-14-16 西天満パークビル3号館7階
℡06-6363-3310 FAX 06-6363-3320 生活保護問題対策全国会議 弁護士 小久保哲郎

 厚労省は、本日、2011年7月の生活保護利用者数が現行生活保護法において過去最多となったと発表した。利用者数に関するこの間の報道は、その増加自体が問題であるかのようなものが多い。しかし、現在の経済不況や震災失業といった未曾有の危機的状況においても多数の国民が飢えることなく生活できているのは、憲法25条で保障された生活保護制度があればこそである。最後のセーフティネットとして機能している生活保護制度そのものの評価を下げるような報道には違和感を覚える。問題とすべきは、貧困そのものの拡大である。その結果として、やむなく生活保護を利用せざるを得ない人が増加しているのが実状である。
当会議は、「生活保護利用者数過去最多」に当たって、以下の見解を公表するものである。

第1 見解の趣旨
 第1に、2011年6月の保護利用者数は204万1592人であったが、同年7月の同利用者数が約205万人となったといっても、保護率(保護利用者数の人口比)は約1.6%にとどまり、現行生活保護法において過去最多数の1951年時の保護率2.4%に比してまだ3分の2程度であり、実質的には過去最多とはいえない。
 第2に、すべての国民、市民に最低生活を保障するという生活保護の目的からみると、貧困率16%(2009年)に対して、保護率は1.6%にとどまり、やっと10分の1しか捕捉していない。資産要件(貯金)を加味しても3割余りの捕捉にとどまる。
 第3に、諸外国との比較においても、日本の生活保護率、捕捉率は際立って低い。よって、生活保護がその役割を十分に果たしているとは到底いえない。
 現在求められているのは、貧困の拡大に対して、社会保障制度を拡充し、雇用を立て直すとともに、生活保護制度の迅速な活用によって生活困窮者を漏れなく救済することである。

第2 見解の理由
1 過去最多は過去最大を意味しない ~1951年204万6千人との比較の意味~
(1)利用者数ではなく、保護率で比較するべき
 1951年度の保護利用者数は204万6千人であるが、当時の人口は8457万人であるから、保護率は2.4%になる。これに対して、2011年7月の利用者数が約205万人に達したといっても、現在の推計人口は1億2691万人であるから、保護率は1.6%にとどまる。すなわち、現在の保護率は、1951年の3分の2程度である。当時と同等の保護率になるには、保護利用者が現在の約1.5倍の309万人に達する必要がある。
このように、実質的に「過去最高水準」と言えるか否かは、利用者数ではなく保護率で比較すべきである。保護率で見ると、近年増加しているとはいえ、未だ「過去最高水準」には遠く及ばないことに留意すべきである。

(2)当時も膨大な漏給(保護漏れ)状態であった
 当時は戦後の混乱期の影響が色濃く残っており、膨大な生活困窮者が存在していたが、生活保護によって救済されていたのは2割にも満たなかった。例えば、やっと戦後が終わったといわれる1955年でも、当時の厚生行政基礎調査(現・国民生活基礎調査)によれば、生活保護世帯の消費水準と同等かそれ以下の水準に留まっている世帯は、204万2千世帯、999万人にも上っていた。これに対して、当時の保護利用者は、66万1千世帯、192万9千人にとどまっていた。したがって、1951年の保護利用者204万6千人といっても、膨大な生活困窮者の中のごく一部分であることに留意すべきである。

(3)当時は社会保障制度が未整備であり、生活保護がワーキングプアを引き受けていた
 当時は、戦後の混乱期の影響から、低賃金労働者が広範に存在していたが、社会保障制度が未整備な段階であった(最低賃金法は1959年、国民皆年金皆保険は1961年)。このため、1951年では、世帯主稼働世帯(世帯員のみ稼働除く)55.3%、1958年では稼働世帯(世帯員のみ稼働も含む)57.7%であった。これに対して、2010年11月の稼働世帯は13.4%にとどまる。1951年当時は、現在以上にワーキングプアを生活保護で支えなければならない状況であり、生活保護への負担がかかって当然であった(にもかかわらず、漏給が多かったのは(2)で述べたとおり)から、この点も留意すべきである。

2 先進諸外国に比べて日本の保護率は著しく低い
 参考図 にあるように、日本の保護率は異常に低い。諸外国では、スウェーデンを始め、少なくとも日本の3倍以上である。また、捕捉率(収入ベースで、貧困水準未満の世帯中の保護利用世帯)も、イギリスを始め、少なくとも日本の3倍以上である。

3 生活保護利用者増加の背景にある雇用と社会保障制度の不全
(1)なぜ生活保護利用者が増えているのか
 近年、稼働年齢層を含む「その他世帯」の比率が増加しているとはいえ13.5%にとどまり、高齢者世帯(44.3%)と傷病・障害者世帯(34.3%)が約8割を占めている(21年度)。すなわち、日本で生活保護利用者が増えているのは、まずもって、年金制度が未成熟で生活保障機能に乏しく、無年金低年金の高齢者や障害者が多数存在することに原因がある。また、非正規雇用の蔓延等によって雇用が不安定化し低賃金の労働者や長期失業者が増えたこと、雇用保険のカバー率が失業者の2割程度と著しく低いこと、子育て世代への支援が乏しく、低所得者に対する住宅セーフティネットもほとんど存在しないことなど、生活保護の手前にある雇用や社会保障制度の手薄さに原因がある。
 こうした状況の中で「最後のセーフティネット」と言われる生活保護の利用者数が増えることはむしろ当然のことであり、多くの生活困窮者の生存を支えているという積極的な面にこそ目を向けるべきである。
 問題は、「生活保護利用者が増えていること」や「生活保護利用者そのもの」にあるのではなく、そうならざるを得ない雇用やその他の社会保障制度の脆弱性にある。こうした生活保護利用者増加の真の原因を解決しないまま、生活保護制度や制度利用者を問題視することでは解決にならないし、中長期的には却って問題をこじらせることが明らかである。生活保護制度を切り縮めることではなく、低賃金・不安定雇用への規制を強化し、雇用保険、年金、健康保険、児童扶養手当、子ども手当、住宅手当、生活保障付き職業訓練などの中間的セーフティネットを充実することこそが求められている。

(2)すべての市民に最低生活を保障するという生活保護の目的からみてどうか
 上記のとおり、貧困が広がる中、生活保護制度が積極的な機能を果たしつつあるものの、未だ十分にその本来の機能を果たし得ているとは言えない状況にある。
 すなわち、相対的貧困率(2009年)は過去最高の16%に達している(2011年7月厚労省 )。これに対して、保護率は1.6%にとどまり、生活保護で救済されているのは、やっと1割である。資産要件(貯金)を加味しても3割余りの捕捉にとどまる(2010年4月厚労省)。この要因は、①生活保護水準以下の収入で生活しているにもかかわらず、現行の厳しい受給要件(最低生活費の1か月分以上の預貯金を保有していると保護が開始されない。自動車の保有や使用は原則として認められない。64歳まで稼働能力の活用を求められるなど)を満たさず受給できない世帯、②現行の受給要件を満たしているにもかかわらず、行政の違法な窓口対応(いわゆる「水際作戦」)や違法な指導指示によって保護から排除されている世帯、③行政の広報不足から自らが受給要件を満たしていることを知らない世帯、④世間の偏見、スティグマから申請を思いとどまっている世帯等、膨大な生活困窮者が生活保護から排除されていることにある。
 以上のように、1951年当時の人口、生活保護での救済率、生活保護の目的、海外主要国の公的扶助率等から検証すると、日本の生活保護がその機能を十分に果たしているとは到底いえない。

4 「不正受給」は実態に即した冷静な議論と対策が必要
 不正受給報道が多いため、生活保護=不正受給というイメージが蔓延している。しかし、「不正受給」の実態を、量的・質的な両側面から冷静に捉えることが必要である。
 確かに、不正受給の絶対額は年々増えているが、それは、受給者増に伴い生活保護費の総額が増えていることに伴う当然のことである。発生率で見ると、2009年度では1.54%(発生件数/世帯数)、金額では0.33%にとどまり(別図表 )、大きな変動はない。
また、不正受給とされるケースの内実はさまざまである。北海道滝川市で06年-07年に起きた元暴力団員による巨額の通院移送費不正受給事件のように悪質なものもあるが、これは役所の姿勢の甘さにも根本的な問題がある。一方で、わずかな勤労収入の不申告が不正受給とされることも多い。そこには、高校生のアルバイト収入の扱いなど制度の側を見直すべきものも含まれる。
 不正受給を解決するには、「不正受給」の背景や要因を、行政の責任も含めて明確にし、高校生のアルバイト収入等などの収入認定除外などの運用の改善、利用者へ申告義務の徹底、ケースワーカーの基準に従った配置(80利用世帯に対して1名)と専門性の向上などが重要である。
さらに、無料低額宿泊所、「福祉」アパート、悪質医療機関など、いわゆる「貧困ビジネス」といわれる問題についても、当事者が生活保護を受給していることに問題があるわけではない。生活保護受給者を食い物にする業者と、それを容認し、むしろ活用している行政に問題があるのであって、悪質業者に対する規制を強化することによって対応すべき事柄である。
 
第3 まとめ 
 現在求められているのは、過去最高の貧困の拡大に対して、雇用を建て直し、雇用保険を始めとする社会保険の充実、第2のセーフティネットなど生活保護に至る前の社会保障制度を拡充して、生活保護制度への負担を軽減することである 。また、それらの社会保障制度から漏れる市民を、生活保護制度の迅速な活用によって漏れなく救済することである。
 以 上

(1)保護率・捕捉率の国際比較
1 保護率 ~日本の保護率(利用者/人口)は異常に低い。
(注)アメリカはSNAP(補足的栄養扶助)
(図表省略)

2 捕捉率  ~日本の捕捉率(貧困水準未満の世帯中の保護利用世帯)も低い。
(注)日本・スウェーデンは当該国の公的扶助水準比、独・仏・英はEU基準比(所得中央値の60%、英は求職者)
(図表省略)

(2)相対的貧困率…日本に住む人を、所得の低い人から高い人からへ順番に並べ、まん中にあたる人の所得(中央値)の半分(112万円)に満たない人の割合。収入金額では、単身世帯では月収9万3千円未満、4人世帯では同じく18万6千円未満の世帯に属する人口の割合。結果的には生活保護基準とさほど変わらない。

(3)(図表省略)

(4) 雇用状況等のデータ一覧
○ 完全失業率4.3%、完全失業者数276万人。有効求人倍率0.66倍(パート込み)。正社員は0.39倍。91万人分の仕事が足りない状況(いずれも2011年8月))
○ 完全失業者に対する失業給付のカバー率は20.9%(2008年)。
○ 基礎年金のみか旧国民年金受給者数は852万人、年金月額4万8,900円(2009年)
○ 国民健康保険料滞納世帯445万(全加入世帯中20.8%)、短期証交付世帯数120万、資格証世帯31万(いずれも2009年)。資格証の受診率は一般世帯の53分の1。国民年金保険料滞納世帯は4割超
○ 2011年10月から職業訓練中の生活保障給付制度が法制化され、求職者支援法が施行された。これは一歩前進といえるが、現在実施されている住宅手当制度も支給対象や内容を拡充したうえで、欧米諸国と同様に、より普遍的な家賃補助制度として法制化することが求められる(このままでは2012年3月で終了)。

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