友人の友人の話です。
去年、定年退職なさった男性。海外駐在まで含め立派に勤め上げられたらしいです。退職後は、近所の子どもたちに学習指導や英語を教えるボランティアに励み、母校のグリークラブで楽しみ、奥様との旅行もまた趣味のひとつと伺えば、それだけで、私は「体も脳もお元気で、充実した第二の人生をスタートされたなあ」と、安心します。ところが、認知症を心配して受診したというのです。
今日の写真は雨のあいだを縫って行った伊豆長岡パノラマパーク。
ロープウエイで7分。
ロープウエイ山上駅を出ると、チケットとは違ってこの時期らしい富士山が眼前に。姿を現したり隠れたり忙しいこと。
エイジングライフ研究所は、認知症になるかならないかはその人の生き方にかかっていると主張しています。
特にカギを握るのは前頭葉。いかにその方らしくイキイキと生活し続けるか。その生活を実現させるのが、脳の司令塔である前頭葉の機能です。
一言に脳機能といってしまいますが、前頭葉機能と脳の後半領域の機能(これを知的機能、認知機能、高次機能などといいます)には大きな差があります。レベルが違うのです。前頭葉機能は最高次機能といわなくては実態を反映しませんが、それ以前にほとんど認知されていないという、とっても不思議なことが起きています。
例をあげましょう。
前頭葉白質部を切断するロボトミー手術を思い出してみてください。重篤な精神病の治療法としてロボトミーを考案したモリスは、1949年ノーベル賞をもらったのですよ。薬ができたためといわれていますが、ロボトミー手術は50年代半ばに入ってから行われなくなりました。たぶんとんでもない後遺症(人格変化、無気力、無感情、注意欠如等々)が次第に明らかになったことも影響してると思います。
でもこの後遺症が前頭葉機能そのものだという認識にはつながりませんでした。
先日行った淡島。ひとつ前の記事ウインダムグランド淡島
世界中で使われる知能検査で一番信頼性の高いものはウェクスラ―知能検査でしょう。
ウェクスラー成人用知能検査WAISは改訂を重ね現在WAIS-Ⅳです。ⅢからWMI(ワーキングメモリー指標。ほんのちょっと前頭葉機能がかかわる項目)が導入されました。
ウェクスラー記憶検査WMSもいまはWMS-Ⅲですね。東大の杉下守弘先生が日本語版を作るとき、標準化について協力したことを思い出しました。
WAISは世界中で使われ、約70年の歴史がありますが、脳機能を三頭建馬車にたとえた時、ウェクスラーの知能検査はあくまでも、馬の能力を測っているにすぎないのです。
上図の「脳力」は前頭葉機能のうちでも最も加齢の影響を受けやすい注意集中・分配力の年齢推移を表しています。
他の身体能力や内臓機能や外見(!)と同様に、前頭葉機能といえども、加齢とともに黒い線で表しているように直線的に低下していきます。それは正常老化であり、脳力が低下することそのものが、認知症ではありません。
人は高齢になれば、必ず全員ボケているわけではありませんよね。
正常老化を超えて、老化が加速されて行くとき、認知症への道を進むことになるのです。その条件は脳の使い方が足りない生活が続くということです。
頼朝公
「生きがいも趣味もなく、交遊も楽しまないで、運動もしない」というナイナイ尽くしの生活は、三頭立ての馬車が停まっているようなものです。廃用性機能低下といいます。
その始まりは状況を判断して何をどうするのかを決める御者が出番をなくしている状態といえばわかりやすいでしょうか。
脳機能からみて、認知症には3段階あります。
小ボケ:前頭葉の機能低下が始まっているが、左脳右脳の機能は正常範囲、家庭生活はできるが社会生活は困難。大体3年続きます。早ければ早いほど回復は容易です。
中ボケ:さらなる前頭葉機能低下、左脳右脳の機能も低下が始まる。家庭生活にも支障。この期間は2~3年あって、中ボケまでは回復可能なレベルです。
大ボケ:前頭葉機能の低下が著しく、左脳右脳の低下も進む。セルフケアにも問題が出てくる。ここから種々の問題行動を経て、寝たきり状態へ。この大ボケのレベルになると回復は困難になります。残念なことに世の中ではこのレベルになって「ボケちゃった」といいます。小ボケ・中ボケの回復可能段階で見つけられないから、「ボケたらおしまい」という恐怖が高齢者を苛むのです。
百体地蔵尊
認知症を怖がる必要はありません。前頭葉機能が自分らしくきちんと働いている自覚さえあれば。なぜならば、脳が正常老化を超えて老化を加速し始めるときには、必ず前頭葉機能から低下を始めるからです。
そしてもちろんそれだけではなく、その機能をチェックできる体制が整うことが必要なのですけど(エイジングライフ研究所の考えを導入した市町村では検査体制ができています)。
ところが、長谷川式、MMSという簡便な知能検査からWAISまで。世間に流布している検査はすべて脳の後半領域の機能だけを測定します。それでは小ボケが見つけられません。小ボケで見つけることこそ、認知症の回復には必須のものなのに…
去年、定年退職なさった男性。海外駐在まで含め立派に勤め上げられたらしいです。退職後は、近所の子どもたちに学習指導や英語を教えるボランティアに励み、母校のグリークラブで楽しみ、奥様との旅行もまた趣味のひとつと伺えば、それだけで、私は「体も脳もお元気で、充実した第二の人生をスタートされたなあ」と、安心します。ところが、認知症を心配して受診したというのです。
今日の写真は雨のあいだを縫って行った伊豆長岡パノラマパーク。
ロープウエイで7分。
ロープウエイ山上駅を出ると、チケットとは違ってこの時期らしい富士山が眼前に。姿を現したり隠れたり忙しいこと。
エイジングライフ研究所は、認知症になるかならないかはその人の生き方にかかっていると主張しています。
特にカギを握るのは前頭葉。いかにその方らしくイキイキと生活し続けるか。その生活を実現させるのが、脳の司令塔である前頭葉の機能です。
一言に脳機能といってしまいますが、前頭葉機能と脳の後半領域の機能(これを知的機能、認知機能、高次機能などといいます)には大きな差があります。レベルが違うのです。前頭葉機能は最高次機能といわなくては実態を反映しませんが、それ以前にほとんど認知されていないという、とっても不思議なことが起きています。
例をあげましょう。
前頭葉白質部を切断するロボトミー手術を思い出してみてください。重篤な精神病の治療法としてロボトミーを考案したモリスは、1949年ノーベル賞をもらったのですよ。薬ができたためといわれていますが、ロボトミー手術は50年代半ばに入ってから行われなくなりました。たぶんとんでもない後遺症(人格変化、無気力、無感情、注意欠如等々)が次第に明らかになったことも影響してると思います。
でもこの後遺症が前頭葉機能そのものだという認識にはつながりませんでした。
先日行った淡島。ひとつ前の記事ウインダムグランド淡島
世界中で使われる知能検査で一番信頼性の高いものはウェクスラ―知能検査でしょう。
ウェクスラー成人用知能検査WAISは改訂を重ね現在WAIS-Ⅳです。ⅢからWMI(ワーキングメモリー指標。ほんのちょっと前頭葉機能がかかわる項目)が導入されました。
ウェクスラー記憶検査WMSもいまはWMS-Ⅲですね。東大の杉下守弘先生が日本語版を作るとき、標準化について協力したことを思い出しました。
WAISは世界中で使われ、約70年の歴史がありますが、脳機能を三頭建馬車にたとえた時、ウェクスラーの知能検査はあくまでも、馬の能力を測っているにすぎないのです。
上図の「脳力」は前頭葉機能のうちでも最も加齢の影響を受けやすい注意集中・分配力の年齢推移を表しています。
他の身体能力や内臓機能や外見(!)と同様に、前頭葉機能といえども、加齢とともに黒い線で表しているように直線的に低下していきます。それは正常老化であり、脳力が低下することそのものが、認知症ではありません。
人は高齢になれば、必ず全員ボケているわけではありませんよね。
正常老化を超えて、老化が加速されて行くとき、認知症への道を進むことになるのです。その条件は脳の使い方が足りない生活が続くということです。
頼朝公
「生きがいも趣味もなく、交遊も楽しまないで、運動もしない」というナイナイ尽くしの生活は、三頭立ての馬車が停まっているようなものです。廃用性機能低下といいます。
その始まりは状況を判断して何をどうするのかを決める御者が出番をなくしている状態といえばわかりやすいでしょうか。
脳機能からみて、認知症には3段階あります。
小ボケ:前頭葉の機能低下が始まっているが、左脳右脳の機能は正常範囲、家庭生活はできるが社会生活は困難。大体3年続きます。早ければ早いほど回復は容易です。
中ボケ:さらなる前頭葉機能低下、左脳右脳の機能も低下が始まる。家庭生活にも支障。この期間は2~3年あって、中ボケまでは回復可能なレベルです。
大ボケ:前頭葉機能の低下が著しく、左脳右脳の低下も進む。セルフケアにも問題が出てくる。ここから種々の問題行動を経て、寝たきり状態へ。この大ボケのレベルになると回復は困難になります。残念なことに世の中ではこのレベルになって「ボケちゃった」といいます。小ボケ・中ボケの回復可能段階で見つけられないから、「ボケたらおしまい」という恐怖が高齢者を苛むのです。
百体地蔵尊
認知症を怖がる必要はありません。前頭葉機能が自分らしくきちんと働いている自覚さえあれば。なぜならば、脳が正常老化を超えて老化を加速し始めるときには、必ず前頭葉機能から低下を始めるからです。
そしてもちろんそれだけではなく、その機能をチェックできる体制が整うことが必要なのですけど(エイジングライフ研究所の考えを導入した市町村では検査体制ができています)。
ところが、長谷川式、MMSという簡便な知能検査からWAISまで。世間に流布している検査はすべて脳の後半領域の機能だけを測定します。それでは小ボケが見つけられません。小ボケで見つけることこそ、認知症の回復には必須のものなのに…
友人の友人の話に戻りましょう。
ドクターの説明
「MCI(軽度認知障害)には至っていない」その根拠として
「MRIの所見。①前頭部は年齢並みより少し委縮気味。②左海馬5%ほど委縮。現時点では全く問題なし」
「WAISはIQ148、WMSはIQ128でともにすばらしい成績。以前はWMSももっと良い成績だったのが、低下が始まっていて、その差が大きくなったので『おかしい』と感じる事象が増えてきたのだろう」
画像診断では、その形態はわかりますが機能はわかりません。(このブログ右欄カテゴリーから『画像だけにたよらない』を読んでください)
「年齢を超えた萎縮とか5%の萎縮」とかドクターから宣告されて、ショックでなかったでしょうか?その言葉でいたく傷つく人もいます。そしてそこからボケていく人も。
それとこの説明は、脳(形ですけど)は老化していくという暗黙の了解があります。おもしろいですね。
「年齢を超えた萎縮とか5%の萎縮」とかドクターから宣告されて、ショックでなかったでしょうか?その言葉でいたく傷つく人もいます。そしてそこからボケていく人も。
それとこの説明は、脳(形ですけど)は老化していくという暗黙の了解があります。おもしろいですね。
萎縮があるかどうか、小さな多発性脳梗塞(ラク―ナ)があるかどうかは、脳機能には何の関係もありません。
どの程度働いてくれているかどうかは機能検査しなくてはわからないのです。今回は一番丁寧なWAISまで実施(そしてすばらしい成績)。でも、前頭葉の機能テストは未実施ですね。
どの程度働いてくれているかどうかは機能検査しなくてはわからないのです。今回は一番丁寧なWAISまで実施(そしてすばらしい成績)。でも、前頭葉の機能テストは未実施ですね。
肝心の前頭葉機能についての言及がない。どんなに馬の能力が高くても、指令が出ないと宝の持ち腐れです。
と、わざわざ驚かしておいて、私の推理を言っておきます。
1.多分大丈夫でしょう。
機能的には、WAISとWMSは1時間から場合によれば2時間もかかる検査なので、それにちゃんと対応でき、成績も上々だったということから、司令塔としての前頭葉がうまく機能したことになります。状況判断力、注意の集中力や分配力、意欲などが正常に働いて、「馬」の能力をきちんと引き出せたと考えるわけです。
最初に書いたように「退職後、近所の子どもたちに学習指導や英語を教えるボランティアに励み、母校のグリークラブで楽しみ、奥様との旅行もまた趣味のひとつ」というような生活がほんとうに楽しめていたら、脳は老化の加速は起こしませんから。
2.一つ気がかりなことがあります。
受診に至る経緯です。何がきっかけで受診されたのか?どんなエピソードがあるのかないのか。ご自分だけにわかる「違和感」の有無とか。
たんに世の中の風潮に乗っただけならばいいのですが。ちょっと医療費がもったいなかったかなぁ(笑)
先月書いた前頭葉機能低下?―「忘れる」のではなくも読んでみてください。
と、わざわざ驚かしておいて、私の推理を言っておきます。
1.多分大丈夫でしょう。
機能的には、WAISとWMSは1時間から場合によれば2時間もかかる検査なので、それにちゃんと対応でき、成績も上々だったということから、司令塔としての前頭葉がうまく機能したことになります。状況判断力、注意の集中力や分配力、意欲などが正常に働いて、「馬」の能力をきちんと引き出せたと考えるわけです。
最初に書いたように「退職後、近所の子どもたちに学習指導や英語を教えるボランティアに励み、母校のグリークラブで楽しみ、奥様との旅行もまた趣味のひとつ」というような生活がほんとうに楽しめていたら、脳は老化の加速は起こしませんから。
2.一つ気がかりなことがあります。
受診に至る経緯です。何がきっかけで受診されたのか?どんなエピソードがあるのかないのか。ご自分だけにわかる「違和感」の有無とか。
たんに世の中の風潮に乗っただけならばいいのですが。ちょっと医療費がもったいなかったかなぁ(笑)
先月書いた前頭葉機能低下?―「忘れる」のではなくも読んでみてください。