脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

脳機能検査をする目的

2020年08月17日 | 二段階方式って?

「脳機能検査」とか「脳の働きを調べます」と聞くと、いかにも「頭の良しあしを調べられる」という気持ちになるようです。ちょうど学校でのテストの成績が100点とか80点とか50点だったみたいに。当然点数がいい方が「頭がいい」「いい結果だった」というふうに思いますよね。
「脳機能検査」の目的はちょっと違うのです。一般的に使われる脳機能検査はわりあい単純な認知機能について調べます。
ある項目ができるとします。一般的なテストでいえば100点ですね。それはもちろん「できる」わけですから、いいことです。でも、テストをしてただ
それがわかっただけ。
カヒリジンジャー

一方で、ある項目はできませんでした。
これは普通のテストでいえば、0点。とんでもない結果ということになりますが「脳機能がうまく働いていない」というこの情報はとても大切で役に立つ情報なのです。その人の生活を理解し、必要ならば援助するには不可欠の情報だということを、テストを実施する保健師さんたちはぜひともわかってほしいと思います。
アサガオ

脳卒中の後遺症で、身体に不全マヒが生じたとします。その時私たちはマヒを認めたうえで、どこまで動くかよく観察も測定もしたうえで、リハビリ計画をたてて改善を図ります。そしてそれでも残存したマヒについて、下肢でいえば、寝たきりから車いす、歩行器が必要なのか、装具は?杖でいいのか、それも四点杖か普通の一点杖でもいいのかというふうに、その能力を見極めていきます。「できるはず」とか「できてほしい」ということではなく、「どこまでできて、どこはできない」のかを厳密にチェックするはずです。
できることは喜ばしいし、楽なことですが、その方の生活を考えると「できないこと」を明らかにしてあげることこそ、本当の援助になると思います。

運動機能はわかりやすいのですが、一般的な認知機能もこれとまったく同じです。
世の中では、認知症の重症度は症状から決めますね。特に周りを困らせる症状が出てくると重度認知症というふうに判断します。エイジングライフ研究所では、あくまでもその人の脳機能はどのような状態になっているのかを調べるところから出発します。
もともと、症状というのはその人の今の脳機能が発揮された結果ということなのです。
つまり、今の脳機能を知ることで、訴えられている症状をより正確に知ることもできるし、訴えられていない生活状況もかなり正確に類推できることになります。これは、まず脳機能検査を行ったうえで聞き取った症状の蓄積が、何千例にも及ぶところから導き出されました。

上図で色分けされたプロット群ごとに訴えられる症状に明らかな差があるのですよ。例えば高齢者がよくいう「記憶力低下」で説明してみましょうか。
青の正常群(前頭葉・後半領域の認知機能共に合格):
花など新しいものの名前が覚えられない。
よく知っている人の名前が出てこない。
黄の小ボケ群(前頭葉だけ不合格・後半領域は合格):
何度も同じことを聞いたり話したりする。
ひどくなると言い終わったかと思うとまた繰り返し話始める(オルゴールシンドロームと私が名付けました)
橙の中ボケ群(前頭葉不合格・後半領域やや低下):
何度聞いても、日付がわからなくなる
服薬管理ができない
しまい場所を忘れて、いつも探している(場合によってはものとられ妄想も)
赤の大ボケ群(前頭葉・後半領域ともに不合格):
食事をしたかどうかすっかりわからない
家族のこともわからない
見当識でも、食作法でも、着衣でも、トイレやお風呂の使い方までそれぞれの群でまったく違うことが起きてくるのです。
どのようにボケは進んでいくのか―治せるレベルで起こす「事件」にまとめておきました。

実は今日のテーマは「認知症」に直接関係しませんが、保健師さんたちに知っておいてほしいと思って書き始めました。
ちょっとお知り合いになった方がいます。70歳過ぎの男性です。
はるか10年以上も前に「くも膜下出血」を発症し、某大学病院脳外科で6時間もかけて頭蓋骨を大きく外しての手術を受けたそうです。幸いにも命を取り留めただけでなく、その後社会復帰まで果たされ現在もご活躍中なのですから、素晴らしいことです。
とても大雑把にいってしまえば、くも膜下出血は、1/3が死亡、1/3が軽いものから植物状態まで含めて後遺症あり、1/3が全く後遺症なしに回復(その中に前頭葉機能のみ低下している人たちがいますが)といわれます。
ブラックベリー

この方は、3番目のグループみたいなのですが、退院時に「高次脳機能障害があります」とドクターから告げられたそうです。
「内容の説明は?」と慌てて訊ねたのですが、「その内容については特別何もお話はなかったのです」
手術が大きかったこともあり「手術は右側でした」とはっきり覚えていらっしゃいました。ついでにお話ししておきますが、軽度の脳梗塞の時に家族ともども「どちらだったか…」と迷われることは多々あるのですよ。
この方の場合は、ダメージがあるとしたら脳機能から言えば右脳。右脳は色・形・音楽・感情などのアナログ情報の処理が担当ですが、検査がしにくいのです。アプローチとしては「形の処理能力」を調べることになります。

左がモデル。見ながら描いていくのです。(モデル提示は右側)
不思議でしょう?縦の線が一本足りません…左空間失認といいます。脳機能検査をしているとこういうことに遭遇します。そのたびに、脳は大変な仕事を黙々としてくれているのだなあと思うのです。
続々―相貌失認(ここにも立方体模写の事例があげてあります)
右脳にダメージを受けた時の左空間失認という後遺症は割合にあるものですが、その可能性を考慮して調べなければ、気が付かないままに終わります。
続々―相貌失認で紹介したように、ご本人は何かと困ることが出てくるのです。例えば、道に迷う、なじみのところのはずがよくわからない。訴えても聞く方が左空間無視の可能性を考慮しなければ注意力不足とか、訴えが大げさ過ぎるとか、もともとの方向音痴に帰してしまって、後遺症の説明に行きつかないままに過ぎてしまうことになります。右脳障害では失語症をおこすことはないので、言葉は自由に駆使できることが、よけい話をややこしくしているのです。(構音障害といって発音がうまくいかないことはあります)
今となっては理由はわかりませんが、とにかく高次脳機能障害といわれ、ただしその内容についての説明はないまま10余年。

日常生活起きてくる「例えば、今まで何の問題もなく電車を乗り換えていた、その駅で逆方向の電車に乗ってしまうとか、家まで車で送ってもらう時にうまく誘導できないとか、言葉でうまく言えないような、なんだか変な失敗が起こり」不安を覚えながら10年間過ごしてこられたのです。
左足にもほんとに軽微なマヒが残っているようで、「そういえば転んだりつまずくときはいつも左です」とも言われていました
たった、1分程度の検査で「疑問も不安も氷解した。この部分の脳の働きに故障が残っていたのですね!いろいろなことが納得できた」と喜ばれました。
これが脳機能検査をする目的です。私もうれしかったです❣️


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